疾走する馬にまたがる、甲冑(かっちゅう)の騎士。1856年、トーマス・バーバリーによってイギリスで創設された〈バーバリー〉が、そのシンボルマークを一般公募して採用したのは1901年頃のこと。その170年近くに及ぶ歴史を紐解いた大著『THE BURBERRY BOOK』を読めば、“古き良き精神を体現する騎士”と“絶えず前進を続ける馬”が、“伝統と革新”を重んじながら今に至るブランドの足跡を見事に象徴していることがわかる。と同時に、ロゴが表現するその二面性に、“イギリスらしさ”を見出すことも可能かもしれない。〈バーバリー〉のアーカイブを管理し、本書に序文を寄せているカーリー・エック氏はこう語る。
「“イギリスらしさ”とは、対照的な関係の間に育まれます。過去と現在、伝統と現代性、若者と年長者の間……。ウィットに富み、謙虚でありながら自信を持ち、常に前向きに世界を捉える視点を持つ〈バーバリー〉も、非常にイギリス的と言えます」
エック氏によれば、そもそもブランドの起源からして、〈バーバリー〉とイギリスという国は、切っても切れない縁で結ばれている。
「イギリスの天候は、四季が一日で巡るといわれることもあるほど変わりやすいため、国民的な関心事です。〈バーバリー〉は、移ろいやすいイギリスの気候から、人々を守る必要に応じて設立されたんです」
そんな中、ブランドにとって最初の転機が訪れたのは、1879年のこと。当時、雨具といえばゴム引きやオイル加工した生地を使うのが一般的だった。しかし、それでは動きにくい。そこで、自身もアウトドアを趣味にしていたトーマスが発明したのが、防水性がありながら通気性もある新素材、ギャバジンだった。
「ギャバジンは、アウターウェアの歴史を変え、ブランドに、新しく独自性があり、時代に即した革新的な価値をもたらしました」
実際、ギャバジンを使用した〈バーバリー〉のアウターは、都会の雨風をしのぐためだけでなく、1911年に南極点に到達したロアール・アムンセンをはじめ、冒険家たちにも重宝された。そして1910年代、新たなギャバジンのアウターが世に問われる。以前から製造していた「タイロッケン」というコートをベースに、さらに機能性を高めたそれこそが、トレンチコートにほかならない。
それがファッションアイテムとして一般人に広く愛され、エック氏の言葉を借りれば「私たちのブランドの中心的存在」になるのは、第一次世界大戦後だ。しかし、〈バーバリー〉がそのヘリテージにあぐらをかき、歩みを止めることはない。今や定番となっているバーバリーチェックが裏地に採用されたのは、1920年代に入ってからのことだし、基本的なディテールはそのままに、シルエットやフォルムも時代ごとに絶えず変貌し続けている。その精神はクリストファー・ベイリーやリカルド・ティッシ、ダニエル・リーといった折々のクリエイティブ・ディレクターたちにも受け継がれている。まさに“伝統と革新”。その意味で、このトレンチコートは〈バーバリー〉が体現するイギリスらしい二面性の結晶と言えるかもしれない。
「〈バーバリー〉のトレンチコートは、ワードローブに欠かせないラグジュアリーなファッションアイテムでありながら、天候に対応する機能を持ち、長期間にわたって日常生活で使用できるようデザインされています。このヘリテージトレンチコートを購入するということは、伝統に身を投じ、美しく作り込まれた製品を手に入れることを意味します。それは今もなおイギリスで作られており、世代を超えて受け継がれていくものなのです」