お酒を無理して飲まなければいけない機会も、最近はめっきり少なくなった。とはいえ、夜のひとときをゆっくり過ごしたいとなると、どうしてもアルコールがメインのバーや居酒屋が選択肢のメインになってくる。お酒を飲まない人のための、夜の居場所が欲しい。そう思う人も多いはずだ。
そんな中、本格的なノンアルコール/ローアルコールのカクテルを提供するバーが、渋谷に誕生した。〈THE 5th by SUMADORI-BAR〉だ。
渋谷センター街の中心に位置するこの店は、オリジナルメニューを中心に全20種類ものカクテルを提供する本格的なバー。スタイリッシュな空間は、一人で静かに過ごすにも、数人で気の置けない時間を楽しむにもぴったりだ。そしてドリンクのアルコールの度数は0%、3%から選ぶことができるので、飲まない人も飲む人もしっかりカクテルを味わえるのだ。
今回はこの〈THE 5th by SUMADORI-BAR〉を、映像作家の鈴木健太さんと俳優の小川あんさんが訪れる。鈴木さんは自身の制作のほか、2023年10月には下北沢にVHS喫茶〈TAN PEN TON〉を開店、12月には映画プラットフォーム『NOTHING NEW』を立ち上げるなど各方面で活躍。そして、小川さんはその『NOTHING NEW』で公開中のホラーショートムービー『犬』の主演を務めるほか、近年数々の話題作に出演し注目を集めている。
仕事関係の付き合いが多そうな映像業界に身を置きながら、普段はお酒を適量に楽しむ程度という2人。はじめてのノンアルコールカクテルをどう楽しむのだろうか。
ノンアルって、こんなに美味しかったんだ
小川
バーって、ちょっと緊張感があるじゃないですか。でもここはすごく落ち着くし、フラットに入れて良いですね。インテリアも素敵で、眺めているだけで楽しいです。
鈴木
いい意味で重すぎないというか、バー初心者でも入りやすい雰囲気ですね。立地もあるのかな。渋谷の駅からすごく近くて驚きました。
小川
鈴木さんは、普段はお酒を飲まれますか?私は最近は本当に飲まなくて、たくさん飲む日は1カ月に1回くらいしかないです。
鈴木
僕もあまり飲まないですね。がっつり飲む日は月に1回くらいかも。
まずは気になったドリンクを注文することに。〈THE 5th by SUMADORI-BAR〉では、カクテルは“FLAVOUR FUSION”と名付けられている。ハーブやフルーツなどの素材の繊細さと、スパイスやオイルなど様々なフレーバーが組み合わさった複雑さを楽しむ、全く新しい大人の嗜好品なのだ。
鈴木さんが注文したのは、ラズベリーベースのカクテルで、インドネシア産コーヒーが良いアクセントになっている《Crimson Star》。小川さんは、水出し玉露にエルダーフラワー、オレンジフラワー、木の芽が入った爽やかなカクテル、《Zazen》を注文。
鈴木
美味しい!ノンアルコールだけど、深みや苦味をしっかり感じます。スパイスが入っているのがすごくよくわかる。なんだか酔った気持ちになりますね。照明など、お店の雰囲気がいいからアルコールがなくても酔えるというか。
小川
私もほろ酔いの気分です!とにかく素材の組み合わせ方がすごい。アルコール、ノンアルコールにかかわらず、初めて味わう風味で、とっても美味しいです。
鈴木
メニューを見て、カクテルの素材がわかるのも嬉しい。バーテンダーの方に、それぞれの詳しい話を聞けるのも面白いなと思いました。
次の日を気にせずに飲める、ローアルの嬉しさ
小川
普段は、飲む日と飲まない日でちゃんとメリハリをつけるようにしています。あとは、飲みすぎてしまった!という日をつくらない。そうすると、自然と仕事のメリハリがつくようになるんです。コロナ禍あたりから、お酒との付き合い方を考えるようになりました。
鈴木
僕も同じです。元々はクラブとか、お酒を飲む場所にも結構通っていたんです。でも実際には、お酒はそんなに強くなくて。コロナ禍に入ってからは、宅飲みもしないタイプなので、飲む機会が本当に減ってしまいました。でも、3%なら自分でも楽しめるかも!って思えますね。
小川
3%、ちょうどいいですよね!こういう仕事をしていると、まとまった休みがなかなかとれなくて。貴重な休みの日に、お酒を飲みたいけど、次の日も仕事だからどうしよう……という葛藤があるんです。そういうときこそ、このお店のように、ローアルコールは本当にいいなと思いました。ゆったりできて特別な夜になりそう。
お酒がなくても、夜にしか生まれないものがある
鈴木
オフィスとか打ち合わせの場では出てこない、夜にしか生まれない会話ってあると思うんです。昼間に一緒に仕事しているだけでは、その人がどんな人で、どんなものが好きなのかわからないこともある。
小川
わかります。お昼にオフィスとかで話すと、どうしても実務的な話ばかりになってしまって、相手の人間的な部分がなかなか見えづらい。バーや居酒屋に場所が変わると、一気に豊かなコミュニケーションになる気がします。
鈴木
夜に気が抜けて雑談する時間が、仕事上の人間関係も楽しくしてくれているなと思う。そのときに飲み過ぎて、次の日に潰れちゃったりしたら本末転倒ですけど(笑)
小川
たしかに(笑)。ノンアルコールやローアルコールだと、調子に乗らず、よりフラットに会話できそうですよね。
鈴木
お酒の量を自分でコントロールできないような場も、今まではあったような。
小川
ありましたね。でも、そういう集まりには行かなくなりました。飲むことが目的じゃない、もっと深い関係の人としか会わないようにしています。お互いを理解していて、お酒がなくても会話を楽しめるような、心地よい関係の人と会う時間を大切にしたいので。
鈴木
そもそもお酒を無理強いするような場も少なくなっていますよね。僕も最近はほとんどない。
小川
お酒が好きな友達といるときも、相手は飲んでいて、わたしは全然飲んでいないこともよくあります。
鈴木
最近はみんな、飲む人は飲むし、飲まない人は飲まないっていう前提があって、飲みの場を楽しんでいるような気がします。
いつか、映画を観ながらカクテルが飲めるイベントを
小川
いつか、映画館でラフにお酒を飲みたいなってずっと思っています。映画館の中にバーがある、みたいな……。
鈴木
いいですね。海外だとよくありますよね。
小川
一緒に来た人とおしゃべりしながら映画を観るのが理想です。座ってみるのは窮屈だから、立って観るのもいいかも。
鈴木
わかるなあ。映画館は静かに映画を観るところだけど、もっとみんなで喋りながら、がやがやしながら観るような楽しみ方もあると思う。映画館という特別な空間も大事なんですけど、それを壊しても絶対面白いと思います。最近自分が立ち上げたVHS喫茶〈TAN PEN TON〉も、お酒を飲みながらみんなでブラウン管で映像を観る体験ができたらいいなと思って作ったんです。
小川
お酒と映像体験って、相性が良さそうですよね!
鈴木
特に映画とか、ちょっとお酒が入って観てみると、別の面白さがあるかも。より没入した感覚で映像を楽しめそうですよね。このお店も、一つ下のフロアの〈THE 5th gallery〉では上映会ができるんですね。いつか、そんなイベントもやってみたいです。
カクテルを楽しむうちに、話は普段のお酒との付き合い方や、仕事上の人間関係にまで広がっていった。2人はしっかり話すのは実は今回が初めてだったのだが、香り高い一杯と居心地のいい店内の雰囲気で、あっという間に自然な空気に。ノンアル/ローアルでも特別なひとときを演出してくれる、〈THE 5th by SUMADORI-BAR〉をたっぷり堪能した夜だった。