1.「恋のブギウギナイト」
ドラマ『新宿野戦病院』主題歌。繁華街を妖しく彩るネオンと地を這うように生きる人々のリアル、金と欲望と情報の洪水をかき混ぜ、なまめかしくギラつくエレクトロポップなディスコチューンに。
「Aメロから歌にオクターブを重ねるのは、サザンでは新しいアプローチ。仮歌のメロディに歌詞が乗ると意外と低く聞こえたので、上の音程を足していきました」(谷田)
2.「ジャンヌ・ダルクによろしく」
2024年のパリ・オリンピック/パラリンピックを意識し、シンプルに突き進んだロックナンバー。「汗と涙」「自由に跳べよ」など力強い言葉に、英仏百年戦争のシンボルである伝説化された少女「ジャンヌ・ダルク」を織り重ねた。
「演奏も歌もレコーディングは速かったです。桑田さんの中にあるものを装飾せずにそのまま出すことができた曲だったのかなと」(谷田)
3.「桜、ひらり」
能登半島地震から1年を迎えた2025年1月1日に事前告知一切なしで配信リリースされたシングル。被災者たちの辛い現実や本音に思いを寄せつつ、前を向いて願う未来への希望を美しい日本語で紡いだ歌のタペストリー。
「サザンでガットギターがリズムを刻むのは珍しいんです。ちょっと柔らかい感じのサウンドにしたかったんじゃないかなと思っています」(谷田)
4.「暮れゆく街のふたり」
サザン流の演歌とも言える恋物語的な世界観と切ないメロディをきめ細かなアレンジが包む。歌詞は音符に対して一語ずつ丁寧に添えられていて、恋人たちの足跡を追うような余韻を聴く者の耳の奥に残す。
「静かな曲ですが、リズムは特にこだわっていました。桑田さんとは小さな音の出し入れ、サビのタムの音などの落としどころをとことん考え抜きましたね」(谷田)
5.「盆ギリ恋歌」
アルバム収録曲では最も早いリリース(2023年7月)。ここから3ヵ月連続で楽曲が配信された。日本の伝統的風物詩としてのお盆や花火と、サザンビーチや夏フェスも同列に歌にして、過去と今の夏の景色をつなぐ。
「アルバムに収録するにあたって(配信版から)ミックスをやり直してます。桑田さんは常に“今どう聞こえるか”を意識している人なんです」(谷田)
6.「ごめんね母さん」
振り込め詐欺やトクリュウをはじめ、誰しもが一歩道を踏み外せば巻き込まれてしまう悪事への弱く不安な心理を描いたとも取れる歌詞と、最新洋楽のトレンドを取り入れたサウンドを持つ異色のダンスナンバー。歌詞は驚きの内容だが、実際は曲が先にできたとのこと。
「ラストに出てくるAIの合成音声も面白いですよね。異色ですけどライブ映えしそうです」(谷田)
7.「風のタイムマシンにのって」
原由子ボーカル曲。湘南の地名や景色を織り込んだ歌詞はサザンの十八番。原坊の歌声の可憐さがまったく変わらずにいるのも奇跡。風通しの良い声が次の季節に続くドアをさりげなく開けていく。
「原さんのボーカル曲は、いつも声がはっきり聞こえるように意識します。サザンの印象って、原さんのあの声が桑田さんを支えている部分が大きいと思うんです」(谷田)
8.「史上最恐のモンスター」
世界を襲う近年の異常気象と自然災害をモンスターに譬(たと)えたメッセージソング。恐怖を煽ったり、大声で叫ぶのではなく、淡々と達観したようなユーモアで、実はもう逃げ場のない非常事態を伝える技巧がすごい。
「歌詞は怖いですけど、歌はすごくリラックスしてますよね。後半はドラムが暴れて。桑田さんはどんな曲にも起伏を持たせるんですよ」(谷田)
9.「夢の宇宙旅行」
デヴィッド・ボウイやイギー・ポップ、大谷翔平が歌詞に登場。スーパースターたちが教えてくれた変身と妄想力。脳内宇宙旅行の描写が素晴らしい。現実の辛さや退屈を振り切って前に進むのは夢見る力だと今度はサザンが教えてくれる。
「このアルバムの要の曲だと思います。ドラムの音色やエコー感については、一番こだわりを持って作りました」(谷田)
10.「歌えニッポンの空」
2023年に3ヵ月連続で配信リリースされたシングルの2作目がこの曲。あえて意味を限定しないことでいろんな物語と重ねられる歌詞とハーバー気分のメロディが、それぞれの「ふるさと」に自然と思いを馳せさせる。
「この曲も配信よりもうちょっと音のパーツに広がりを持たせられないかとリクエストがあったので、ステレオ感を増したり、音を足しました」(谷田)
11.「悲しみはブギの彼方に」
デビュー前に演奏されていたものの未発表のままだった幻のレパートリーを新曲として再構築。歌詞の内容もバンド感溢れる演奏も武骨でエモーショナルだが、サザン的要素はすでに全部揃っている。
「『熱い胸さわぎ』当時の音にしたい思いがあってすごく工夫しました。桑田さんのスライドギターは自宅のアンプで出した音で録(と)りました」(谷田)
12.「ミツコとカンジ」
「悲しみはブギの彼方に」からメドレーでつながって、こちらは現代のサザンによるバンドサウンド。あの名レスラーと名女優の恋模様を妄想した物語?端々に見えるプロレス愛と帰らぬ日々を慈しむ優しさ。
「レコーディングしたのは『悲しみはブギの彼方に』より前でしたが、結構早い段階から桑田さんは、メドレーにするアイデアをお持ちでした」(谷田)
13.「神様からの贈り物」
ポップミュージックの世界を切り開いてきた先人たちへの敬愛を名曲のタイトルや番組名などをちりばめて表現するオマージュは、サザンと桑田佳祐にとってライフワーク。その最新版にして最高傑作とも言える感動的な音楽賛歌。
「最初“エンジニア”って歌詞があって“やった!”と思ってたんですが、気づいたら“スーベニア”に差し替わってました(笑)」(谷田)
14.「Relay~杜の詩」
2023年配信リリース三部作のラスト。ビクタースタジオに近く長年慣れ親しんできた明治神宮外苑をはじめ、各地で議論を呼んでいる再開発問題に目を向け、社会に対して穏やかな対話と熟考の必要性を訴える。
「桑田さんは『ジョンの魂』みたいな、ストイックな音像にしたいんだと言ってましたね。サザンのアルバムはラストを締めくくる曲が重要ですからね」(谷田)
16枚目のオリジナルアルバム。前作『葡萄』からは10年ぶりで、サザンの多様な音楽性のすべてが詰まったバラエティに富んだ一枚。2023年から発表された配信シングル6曲を含む全14曲入り。