韓国・ソウルを拠点に活動するプロデューサー、DJのナイト・テンポは、これまで松原みきや杏里、菊池桃子など、数々の日本人アーティストの楽曲をリエディットし、発表してきた。その中でも竹内まりや「Plastic Love」(1985年)のリエディット動画は、総再生回数1,400万回を記録。目下、世界中を席捲するシティポップ・ブームを牽引する一人だと言っても過言ではない。
動向が注目を集める最中、日本のゲストシンガーを迎えた、メジャー第1弾となる5枚目のオリジナルアルバムを発表する。そんなナイト・テンポに、まずは日本の音楽との出会い、そして新作について話を聞いた。
「1980年代後半、僕がまだ小さかった頃、父が輸入の仕事をしていて、CDウォークマンとCDを買ってきてくれたんです。その中にあった中山美穂さんの『Catch Me』(87年)が大好きになりました。それから角松敏生さんや山下達郎さんの音楽を聴くようになって。
10代の頃は欧米のダンスミュージックなどを聴いていましたが、20代になってまた日本の音楽を聴いてみたところ、すごく新鮮に感じ、いろいろ集めるようになった。5年ほど前に神戸や横浜の古びたレコード屋さんの在庫を見せてもらい、その中から竹内まりやさんのカセットテープを掘り当てて。当時はまだ安かったので、大量に買って帰りましたね」
ナイト・テンポの拠点である韓国はもちろん、世界的にシティポップが受け入れられている理由を分析してもらった。
「韓国は少し前から景気が悪く、国全体に元気がない気がします。そんな僕らにとっては、日本の80年代後半から90年代前半のバブルの時代、日本の若者が元気に遊んでいた頃の文化がカラフルで、楽しそうに映る。
同じような状況は韓国だけに限らず、世界中の人も感じているからこそ、日本のシティポップを中心にしたレトロブームが起きているんじゃないでしょうか。韓国では政治的な問題から、しばらく日本の音楽をかけるイベントを開催しづらい状況でしたが、現在はオンラインなどで盛んに行われています」
新作『Ladies In The City』は、80年代後半から90年代前半の東京、好景気を背景に、社会進出を果たした女性たちの物語。音楽自体はきらびやかなダンスミュージック。懐かしい側面もあるが、多彩なゲストの配置で、新鮮な再発見が楽しめる感覚が面白い。
「設定した時代の日本の音楽を聴くと、本当に多種多様なものが出てきた時代なのがわかる。ディスコに近いシティポップもあれば、初期の渋谷系もあり、さらにイギリスからはレイブサウンドも入ってきていて。そんな入り混じった感覚に、新しい音楽を加え、自分のフィルターに落とし込みながら、曲を作っていきました。
また、参加していただいたシンガーの声を参考にしながら物語を作っていったので、一人も欠かすことができない。希望通り、皆さんに快諾していただいて、本当にラッキーでした。国分友里恵さんや刀根麻理子さん、野宮真貴さんなど、実際に80年代に活動していた方とは、歌詞のニュアンスのリアルさを求めるために、Zoomやメールで相談しながら歌詞を書いて。
憧れの方と実際にお話しできたのは嬉しかったんですが、対面していたら緊張して話ができなかったかも(笑)。良くも悪くも、時代が味方してくれた感じですね」
Zoomでの取材中、部屋に菊池桃子主演の映画『アイドルを探せ』(87年)のポスター、VHSなどがチラチラ見える。
「この映画が大好きで、VHSやポスターを買いました。内容は置いといて(笑)、都会での甘酸っぱい恋愛模様など、まさに新作の物語にぴったりで、参考にしましたね。次に日本へ行った時は、アルバムの舞台設定の時期に活動していた音楽家の方に、当時の状況を聞いてみたいです。場所は夜景のキレイなホテルのラウンジなんかがいいかな(笑)」