Q1.紅茶と日本茶はどこが違いますか?
A.原料の茶樹は実は同じ。その葉の加工プロセスが違います

日本茶も紅茶も、そして烏龍茶も茶樹の葉を摘んで加工したもの。その原料は、どれも学名がカメリア・シネンシスというツバキ科ツバキ属の永年性常緑樹の葉である。茶樹は、葉が20センチまで生長するアッサム種と、5センチ程度までしか大きくならない中国種とに大別され、日本茶は中国種、紅茶はアッサム種を主に用いるが、両種の間の学術的な差異はわずかだと考えられている。

では3つのお茶の違いが、どこから生じるかというと、それは摘んだ茶葉に対する最初の処理方法にある。生の茶葉には様々な酵素が含まれ、これらの働きにより、摘んだ葉は酸化が促される。この酵素の働きを止めるため、茶葉を加熱処理(殺青(さっせい)または失活(しっかつ))するのだが、どの段階で熱を加えるかによって、お茶の種類が決まるのだ。
日本茶は酵素がほとんど働かない早い段階で加熱処理し、烏龍茶は少し酵素を働かせた段階まで、そして紅茶は酵素が最大限に働くまで加熱処理を施さない。一般的に日本茶を「不発酵茶」、烏龍茶を「半発酵茶」、紅茶を「発酵茶」と呼ぶのは、慣習的な呼び名であり、実際にはアルコール発酵のような酵母が介在する発酵ではない。
世界の主要な茶産地


Q2.お茶はどこから来たのでしょう?
A.中国雲南省西南地域が原産地。日本には僧侶が持ち込みました
2008年11月、中国浙江省(せっこうしょう)の田螺山(でんらさん)遺跡で、6000〜5500年前の地層から世界最古の茶畑と見られる遺構が見つかった(現在学術調査中)。実に古くから飲まれていた茶の原産地には諸説あるが、中国雲南省西南地域とする説が現在は多数派。そこから東南アジア各地や日本へと茶は広がっていった。
日本で最初に茶が登場するのが『日本後紀』。815年に嵯峨天皇が琵琶湖西岸の韓(唐)崎へ行幸した帰途、大僧都永忠より茶を献じられたとの記述だ。永忠は最澄や空海らと同じ最初期に唐に渡った留学僧で、唐から茶を持ち帰ったと考えられる。また最澄ゆかりの大津の日吉大社近くには、最澄が持ち帰った茶の実を植えた、最古とされる茶園が残っている。
しかし、遣唐使の廃止によって喫茶文化は停滞することに。しかし1191年に宋から帰国した栄西禅師が、茶の種子を持ち帰り、抹茶の飲み方を伝えたことで、日本茶の文化は再び花開いたのだ。
Q3.やっぱり新茶が一番ですか?
A.インド紅茶は3つのシーズンを楽しみ、日本茶は新茶を貴びます。

冬の眠りから覚めた萌芽を摘み取り加工する。日本では「一番茶」と呼ばれる新茶が一番美味(おい)しいとされるのに対し、インド紅茶の場合は、新茶に当たる「ファーストフラッシュ」を摘み取ったあとに生える芽を摘む「セカンドフラッシュ」や、さらにそのあとの秋の萌芽を摘んだ「オータムナル」と、それぞれの違いが楽しまれている。

ダージリンの例では、ファーストフラッシュは繊細で柔らかな香気が持ち味。セカンドフラッシュはフルーツのような芳醇な香りを持ち、オータムナルはしっとりと甘い、穏やかな味わいが特徴だ。
紅茶が3つの収穫期(クオリティシーズン)を楽しむのは前述のように酵素を最大限働かせるから。酵素を働かせない日本茶はフレッシュさが命。二番茶、三番茶と収穫時期が遅くなるにつれうまみ成分のアミノ酸が減り、渋み、苦みが強くなる。また10月頃に採れる「秋冬番茶」はうまみ成分がさらに少なく、さっぱりした味わい。

Q4.紅茶はどんなふうに作るのですか?
A.高級品は伝統的なオーソドックス製法で作られています
世界各地で産出される紅茶だが、その製造法は、茶の故郷である中国に伝わる製法が基礎になっている。今では、その伝統を守る「オーソドックス製法」と、それとは異なる工程を経る、より現代的な製法とに大別され、2つを合わせた製法を試みるエリアもある。
3大産地であるダージリンやウバ(スリランカ)、中国のキーマンで採れる高級な紅茶はオーソドックス製法が主流で、丁寧に作られている。
紅茶の3大産地

紅茶の製法

葉を摘み、軽く萎(しお)れさせた(萎凋)あと、酸化(発酵)しやすくなるように、強く揉(も)んで(揉捻)葉汁を出して、特別な部屋で酸化させ、酸化が完全に進行したら加熱乾燥して酵素の働きを止めて完成となる。
こうしたオーソドックス製法で作られた紅茶には、FOP(フラワリー・オレンジペコー)やOP(オレンジペコー)などの等級が記載されているが、それは品質の優劣ではなく、製茶仕上げが終わった原料茶の茶葉の大きさや形による分類に過ぎない。また「オレンジ」との呼び名は香りではなく、茶葉の色だ。これらの表示は、茶園の独自基準であり、同じ等級でも茶園が違うと大きさが異なることが多い。
現代的な製法の代表は、「CTC」。萎凋のあと葉を押しつぶし(Crush)、細かく裂いて(Tear)丸める(Curl)もので、顆粒状になった茶葉は、短時間で濃く抽出できるという利点がある。現在、生産される紅茶の大多数はCTC製法によるものだ。
紅茶のグレードの見方

紅茶のグレード別、茶葉の違い

Q5.煎茶と玉露は何が違うんですか?
A.煎茶は日光を浴びた茶葉、玉露は遮った茶葉を使います
お茶の味を構成する成分の中で、テアニンが甘みやうまみの成分、タンニンが渋みの成分。テアニンは陽に当たるとタンニンに変わる。前述した一番茶が、渋みが少なくうまみがあるのは、新芽であるため陽に当たる時間が短いからだ。
この新芽に陽が当たる時間を人工的にコントロールして栽培されるのが「玉露」。摘み取る前の20日間、覆いをかけ陽の光を遮って栽培。結果、茶葉には甘み成分のテアニンが多く含まれ、とろりとした深みのあるうまみが生まれる。
一方、日本茶の消費量の80%を占める「煎茶」は、日光を浴びた茶葉を摘み、高温の蒸気で蒸して酵素の働きを止め、さらに揉むことで細胞を破壊して、煎出しやすくしている。テアニンとタンニンのバランスが良く、日本茶ならではの爽やかな香りが特徴だ。
そして煎茶作りの最初の蒸しを、通常の2〜3倍長く行ったものが「深蒸し煎茶」。普通煎茶に比べて細胞の破壊具合が進行しているため、より短時間で淹れられる代わりに、粉が多く出て、水色が濁るという欠点もある。
普通煎茶と深蒸し煎茶の違い

茶道で用いられる「抹茶」は、玉露と同じように覆いをかけて栽培した茶葉(碾茶(てんちゃ))が原材料。摘んで蒸し、揉まずにそのまま乾燥させ、さらに茎や葉脈を取り除いてから石臼で挽いて作られる。
「茎茶」は、玉露や煎茶を作る過程で取り除かれた茎の部分を集めたお茶。「番茶」は、次の収穫期に向け枝を成形する際に摘む茶葉(秋冬番茶)などを使った日用茶。その渋みを和らげるため炒った玄米を混ぜたのが「玄米茶」。番茶を強火で焙じた「ほうじ茶」は、渋みが和らぎ、香ばしさが優しい。
種類によって日本茶も様々
こうした多様な日本茶は、同じ茶樹から採れる。しかし学術名は単一の茶樹にも、品種があり、全国の茶園面積の75%を占めるのが「やぶきた」と呼ばれる品種。寒さに強く栽培しやすいことから、全国を席捲したが、新たな個性を求める茶園では、脱やぶきたの動きも始まっている。


Q6.お茶の美味しさはどう決まりますか?
A.オークションや品評会が、正当な評価を下しています
紅茶も日本茶も、生の茶葉から様々な工程を経て完成する加工食品。摘んだ生葉は、すぐに加工する必要があるため、茶園に隣接する製茶工場で加工されるケースが多い。ところが、それがそのまま流通するケースは実は少ない。生産者が加工した原料茶(日本茶ではこれを荒茶(あらちゃ)と呼ぶ)をメーカーや茶舗が買い取り、それぞれの製品に求められる品質や特徴、価格に応じて再加工やブレンドがなされ、小売りに回されるのが大多数なのだ。
こうしたお茶ならではの流通形態は、お茶の味や品質を通年安定させるという点では確かに優れている。しかし一方、紅茶はインドのコルカタやスリランカのコロンボで開催されるオークションで、日本茶は「全国茶品評会」で、正当な味や品質の評価を受けた単一農園の茶だけを販売するという新たな動きも始まっている。
紅茶のオークションも、日本茶の品評会も、その鑑定方法はよく似ている。紅茶の場合は専用のカップに茶葉を入れ、熱湯を注いで長めに淹(い)れ、審査碗に移す。日本茶は粗めの茶漉しに茶葉を入れ、審査碗の上でお湯を注ぐ。どちらも、淹れる前の茶葉と淹れたあとの茶葉の状態も審査基準だ。
日本茶の全国茶品評会は、茶産地が持ち回りで主催し、今年で第63回を迎える。評価を担うのは全国から集まった25名の審査員で、普通煎茶や深蒸し煎茶、玉露など7茶種9部門に茶園が持ち込んだ自慢の茶葉を、それぞれ「外観」「水色」「香気」「滋味」の4つから厳密に審査する。評価は減点方式で、得点順に各部門の順位が決まり、点数に応じて1等賞、2等賞などにランク付けされる。インドの紅茶オークションでも外観、水色、香気、滋味などを入札者が判断。各茶農園にとって、ここで高値がつくことは誇りであり、各茶園の上級の紅茶の多くが、オークションへ出品されるという。

メーカーや茶舗は安定感が魅力。より高品質を目指し、評価の高い単一農園で選ぶのも面白い時代に。


Q7.茶師ってなんですか?
A.日本茶の最終的な味や品質を決めるプロです
前述のように、日本茶は生産者の手で「荒茶」に加工されメーカーや茶舗に納品される。気候や収穫時期、産地で異なる味や品質を「香甘苦渋」のバランスが取れた製品に加工するのが、茶師の役割だ。
まず仕入れた荒茶の葉の形が揃うよう選別し、続いて風味を高めるために熱を加える「火入れ」という二次加工を施す。仕上がったお茶は、それぞれの特徴を見極めながら数種類、時には10種類をブレンドする。この「合組(ごうぐみ)」という作業により、製品のより安定した味と品質とを維持しているのだ。
つまり茶師には茶葉の特徴を見極める能力が求められ、その技量を測るのが「全国茶審査技術競技大会」。品種や生産時期、生産地などを、茶葉と淹れた状態とで完全ブラインドによる見極めを競う。さらに得点に応じ段位が授けられる。一度の競技で獲得できる最高段位は六段まで。それ以上の昇段には、継続した高得点獲得という厳しい基準のクリアが定められる。
品質を決める合組の仕組み
Q8.ハーブティもお茶ですか?
A.植物から煎出した飲料は、慣習的に「茶」と呼ぶこともあります
炒った麦の実を煮出したものを「麦茶」と呼ぶように、茶葉を一切使っていなくても、植物を煎じた嗜好飲料は、すべて慣習的に「茶」と呼ばれている。カモミールやペパーミントなどのハーブを単体、あるいは混ぜ合わせて用いるハーブティもその流れにあり、ハトムギや小豆、トウモロコシなどの穀物を乾燥させたもの、杜仲(とうちゅう)や桑といった茶以外の葉を乾燥させたものなど、多様な植物から煎出したお茶が飲用されている。
これらは、植物が持つ薬効成分や香りが精神にもたらす各種効果を期待したもので、お茶も元々は、薬として用いられたことを考えれば、慣習的にすべて「茶」と呼ぶのも、少しは納得できよう。
また中国茶や紅茶には、香りづけとして茶葉以外の植物を混ぜたフレーバーティが数多く見つかる。中国産の緑茶にジャスミンの花弁を混ぜたジャスミンティは、もうお馴染みだろう。中国茶にはほかにも色々な花を混ぜた多様な「花茶」があり、花の持つ優しい香りでリラックス効果を生んでいる。
茶葉自体に植物エッセンスなどで香りづけしたフレーバーティもある。その代表が「アールグレイ」だ。これは紅茶の品種ではなく、柑橘類のベルガモットのオイルで紅茶に香りづけしたもの。元は中国福建省産の紅茶、ラプサンスーチョンの持つ、龍眼(ライチに似た小ぶりな果実)に似た香りを出そうと腐心した結果生まれたもの。紅茶では伝統のフレーバーティで、世界中で愛飲されている。

写真/アフロ
