デジタルからアナログへ。初の油絵作品を通じて得たもの
YOASOBI「夜に駆ける」のMVに代表されるアニメーションを筆頭に、イラストレーション、漫画、インスタレーションなどさまざまな表現手法で鮮烈なビジュアルを発表し続けるninaさん。東京藝術大学在学中だった2017年にアーティスト活動を始めて以来、主にクライアントワークを通じてその才能を世に広く知らしめてきた彼女が、2024年に初めて、パーソナルワークを集めた展覧会『AfterBirth』を東京と福岡で開催した。初の個展に挑んだ思いを、本人はこう振り返る。
「個展を通じて、自分の世界観を確立させたいという思いがありました。主にクライアントワークを続けているなかでは、『自分ってどういう表現がしたかったんだっけ』ということにじっくり向き合う機会があまりなくなっていたので、一度原点に立ち返りたいなと。自分は何に興味があり、どういうテーマ性で作品を作ってきたのか。それらを掘り下げた先にある“自分軸の作品”に向き合いたいというのが大きかったですね」
表現の軸を模索する中でたどり着いたのは、「身体を忘れたくない」との思い。「クライアントワークを含むこれまでの表現の共通点を探した時に、自分はどこかアナログな状態や、肉体のリアルな感覚に戻りたがっているなと感じた」とninaさん。デジタルなツールの恩恵を受けて生まれ育ってきた世代でありながら、心のどこかではデジタルへの不自然さや違和感を感じ取り、あえて身体の肉感やアナログな質感をモチーフとしてきた。その“身体性”という題材をより深めていくことが、個展のテーマに据えられた。
このテーマは描くモチーフのみならず、手法にも投影された。これまでPCやiPadなど、デジタルツールを用いて絵を描いてきた彼女だが、今回の個展では初めて油絵や立体作品に挑戦。自らの身体を使って描きだすアナログな表現を志した。
「ずっとやってみたかったことなので、この機会に思い切って挑戦してみようと。油絵に関しては、3月の東京での初開催時には、5作品を発表しました。その時は正直、画材の使い方もよくわからないまま手探りな状態で描いていた記憶があります。福岡の巡回展で追加で4作品を描いた時に、ようやく少しだけ油絵と仲良くなれた気がして。書き味を身体的に掴めたような感覚でした」
油絵という表現を経験したことによって、デジタルなツールでの表現への向き合い方にも変化をもたらしたのだそう。
「描くことに潔癖じゃなくなったな、と思います。デジタルだと、緻密なものをきっちり描かなきゃいけないっていう意識になっていくんですよね。修正もできるからこそ、もっと綺麗なものを描かなきゃと苦しくなっていく。でも油絵では偶発的な要素や、アナログゆえの粗さが味になることもあります。それがわかってから、デジタルで書く上でも気持ちが楽になった気がしています」
道を切り拓いたのは学生時代に振り絞ったある勇気
年々表現の幅を広げていくninaさん。そもそもアーティスト活動を本格化させるきっかけになったのは、彼女自身が「人生で一番勇気を出した瞬間だった」と振り返る学生時代のある行動だった。
「大学の講義に特別講師として訪れた映像ディレクターの児玉裕一さんに突撃でご挨拶をしたことが、今につながるきっかけだったと思っています。昔から作品が好きで尊敬していた方で、講義の後に授業で作った15秒程度の短いアニメーションを見せて、『何かお手伝いをさせていただけませんか』と伝えて。後日、児玉監督が連絡をくださって、お仕事をご一緒する機会をいただくことができました」
この思い切った行動について「何も知らないからこその無鉄砲さだったと思います。でもさまざまな大人の常識を身につけた今も、その勢いの良さだけは保ちたいですね」と話す彼女。こうした学生時代の感覚は、作品に向き合う姿勢においても同様に大事にしている。
「与えられた課題に対して、フリースタイルで応えていく。その学生時代の自由さは、今の仕事でも忘れないようにしようと心がけていることですね。もちろん仕事なので、クライアントの意向を汲み取って調整することも必要ですが、根本は学生時代のままでいることが、自分にとって大事だし、課題でもある。それを面白いバランスで形にできたなと思うのが『夜に駆ける』のMVでした。当時はまだ学生で、授業を通じて学問としてのアートに触れる時間が長い中で、現代的で大衆的なアニメーションに挑んだこともあり、独特の空気感を形にできたなと。たくさんの人にも知ってもらうことができましたし、良い出発点だったなと思っています」
ラフにもカジュアルにも。表現の幅と同様に、装いも幅広く
時には大胆な行動をしたり、時に来た道をじっくりと振り返ったり。絶えず挑戦を繰り返しながら、一歩ずつキャリアを前進させるninaさん。装いに関してもここ数年で変化があった。
「最近はラフな服装が多くなりましたね。夏ならTシャツとジーンズだったり、冬はパーカだったりと、着心地が良く、自然体でいられるようなものを選ぶようにしています。以前はドレッシーな装いが大好きで、正直、スカートとブラウス、ローファーばかりを持っていたんですが、一度カジュアルな服を試してみたら心地良すぎて(笑)。気負わなくてもいいんだと気づいてからは、スニーカーやパンツも楽しんでいます。もちろん装飾的なお洋服も好きなので、特別な日に着ていますね」
この日着てもらった〈東京デザインスタジオ ニューバランス〉のアイテムは、アスレチックウェアを手がけてきたブランドならではの機能性と着心地の良さが特徴。さらには、スカートやブラウスなどのドレッシーなアイテムにも自然とフィットする、シンプルながらも考え尽くされた美しいシルエットが持ち味だ。
「しっかりした機能性を持ちながら、デザイン性が高いというのがすごく魅力的ですね。何より独特の色味が気に入りました。普段からよく色のある服を着ていて、ビビッドなものよりも少しグレーがかった淡い印象なものが好み。このフリースは、グレーっぽいブルーが絶妙で、普段にも取り入れたいです」
最近私生活では、運動習慣を身につけたという彼女。それにより、洋服の楽しみ方も広がりつつある。「1年ほど前から、週に1回の筋トレをしています。今まであまりにも運動をしていなかったので、健康改革の一環として始めたところ、体が変化していくのが嬉しくて。肩周りが華奢すぎて手を出しづらかったタンクトップやノースリーブにも、挑戦するようになりました」
今後について、「自分軸の作品を作ることをより一層深めていきたい」とninaさん。主にクライアントワーク中心だったアニメーションについても、オリジナル作品を作るなど多様な表現へトライしていきたいのだとか。そのために彼女が今向き合うのはインプット。自分の中にアイデアや知識を蓄えることを心がけている。
「忙しい時期にはなかなかまとまって勉強時間をとることができなかったので、少しゆとりのある今は、作品制作と並行して、インプットをしたいなと思っているところです。最近では、デジタルネイチャーや哲学史の勉強をしようと、本を開いていて。こうした学びは作品に直接的に作用するものではないし、描こうとする時にわざわざ思い返すようなものではないですが、得た知識がいずれ自分の中に自然にある状態になった時、世の中の見える範囲が広がったり、題材への理解が深くなったりするんじゃないかなと。アーティストとして表現を続けていく上での補助線のような役割をしてくれるのだと思っています」
軽くてボリューム感があり、高い保温性を備えたリサイクルポリエステルを使用。そこに、レーヨンを混紡することで、優しい肌触りを実現させたのもポイント。さらに吸水速乾性の高いクールマックス素材のメッシュライナーが最良の着心地に。
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