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北村匠海の初監督作『世界征服やめた』が公開。不可思議/wonderboyから受け取ったバトンとは?

俳優でありアーティストである北村匠海ならではの感性で描く短編映画『世界征服やめた』が完成した。不可思議/wonderboyの音楽から北村が受け取った鮮烈なメッセージ。彼はそれをどう映画に昇華したのか。

photo: Masanori Kaneshita / hair&make: Asako Satori / styling: Shinya Tokita / text: Mie Sugiura

この映画は、自分を救ってくれた音楽への“恩返し”

北村匠海が初めて脚本・監督を務めた短編映画『世界征服やめた』映画は、23歳でこの世を去ったポエトリーラッパー、不可思議/wonderboyの同名曲にインスパイアされて制作されたものだ。

「自分は8歳でこの世界に入り、高校生になる頃には正直孤独感に苛(さいな)まれていて、その感情を救ってくれたのがこの曲でした。でもこの曲に出会ったとき、すでに不可思議/wonderboyさんはこの世にいなくて」。当時、北村は17歳。「いつか必ず何かの形でこの恩を返したいと思っていました」と、大切に温めてきた思いを語った。

「命を燃やし続けるんだよ」。早逝のポエトリーラッパーから北村匠海が受け取ったバトン

北村匠海
ジャケット402,600円(バリー/バリー・ジャパン カスタマーサービス TEL:050-1743-8146)

不可思議/wonderboyの「世界征服やめた」は、“生きること”の本質を烈火のごとく熱い言葉に託したポエトリーリーディングだった。その声に、その言葉に北村は触発された。「“人生はきっと流星群からはぐれた彗星のようなもので行き着く場所なんてわからないのに命を燃やし続けるんだよ”という部分が突き刺さりました。無力感に苛(さいな)まれている場合じゃない。命を燃やし続けることこそが人生だと」。この世界に身を置きながら心を失いかけていた北村にとって、その音楽はまさに“救い”だった。

自身が抱えていた孤独感、そして不可思議/wonderboyから受け取った“生”への思いは、本作『世界征服やめた』で描いた、主人公のサラリーマン・彼方(萩原利久)と同僚の星野(藤堂日向)の言葉となって強いメッセージを放つ。作中、星野がビルの屋上で激情的に孤独を吐露するシーンがあり、その1カットの長回しは観る者を圧倒する。

北村匠海
ジャケット402,600円(バリー/バリー・ジャパン カスタマーサービス TEL:050-1743-8146)

「カメラテストもなしで1テイクで撮り切りました。役者もスタッフさんも、脚本を読んだ段階で“北村が一番表現したいのはこの場面だ”と察していたと思います」。

その場面での「一人きりじゃ無理だ。誰かと肩組んで生きねえとダメなんだよ」という星野の悲痛な叫び。この生々しい叫びは間違いなく北村が強く表現したい言葉だったはずで、これこそが不可思議/wonderboyから受け取ったバトン。そのバトンを見事に昇華してみせた北村は、「映画を撮り終え、いま改めて“言葉”に向き合っている」と語った。これから、彼の表現がどう変化していくかとても楽しみだ。

『世界征服やめた』
企画・脚本・監督:北村匠海/原案・主題歌:「世界征服やめた」不可思議/wonderboy(LOW HIGH WHO? STUDIO)/出演:萩原利久、藤堂日向、井浦新(友情出演)/「死」と「生」の意味を深く伝える51分の短編映画。2月7日、全国順次公開。
©『世界征服やめた』製作委員会