滝を探す旅にはイマジネーションが必要だ
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旅に出かける理由は人それぞれだと思うけれど、滝を目指す旅はどうだろう。Googleマップに「滝」と入力とすると、無数に滝が現れる。その総数は1万5000を超えるといわれる。日本は滝の王国だ。
滝の定義は「河川にできた河床の段」とされていて、地形で生まれた落差のある流水のことを指す。約70%が山地である日本には落差=滝が無数に生まれるというわけだ。
滝探しは楽しく、難しい。眺めるだけの滝であれば何も苦労はないのだが、打たれる滝となるとなかなか条件が整わなかったりする。だって、落差約350mの称名の滝(富山県)に打たれたら間違いなく死んでしまうし、滝壺が深すぎて立つ場所がないとか、滝にたどり着くまでの道のりが険しすぎるとか、さまざまな条件をクリアしないとならないのだ。
1万5000の滝のうち、打たれるのに適した滝はそこまで多くないだろう。だからこそ、滝探しは楽しい。
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滝を求める滝旅で目指したのは山梨県北杜市の吐竜の滝。八ヶ岳南麓の標高1250mほどに位置する川俣川渓谷の断崖から染み出すように水が放出される、落差約10mの美しい滝である。
駐車場から15分ほど歩いて森を抜けるアクセスも心地いいし、滝の落水量もほどほどなので、フリースタイル滝行の入り口としてはおすすめの滝なのだ。
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滝にもさまざまな姿形がある
ところで、滝といってもさまざまな姿形がある。一つとして同じ形の滝なんてないのだ。たとえば吐竜の滝は断崖から吹き出した地下水が幾筋もの流れとなって川に落ちるタイプで「潜流瀑」とカテゴライズされている。
滝の種類で代表的なものは「直瀑(まっすぐに上から下へと落水する形)」、「段瀑(何段にもなって落水する形)」、「分岐瀑(幾筋にも別れて落水する形)」など。中でも滝に打たれるならおすすめは直瀑系の滝。脳天からお尻までズドンと体の中央を真っ直ぐに貫いてくれるからだ。
日本の多くの土地で、古くから滝は水の神様である龍神そのものとして扱われてきた。「滝」という漢字は水を表す「さんずい」に竜で構成されているように、滝は水神であって神聖な水を守っているというわけだ。滝は古くから信仰の対象となってきた場所という側面も持つので、敬意を持って接したい。
日本のように信仰の対象ではないが、世界中に素晴らしい滝はあり、滝を眺めるためのスポットが存在する。その最高峰といえるのが、アメリカが生んだ20世紀最高の建築家、フランク・ロイド・ライトが設計した「落水荘」ではないだろうか。ペンシルバニア州にあるこの建築は、アメリカの大富豪であったエドガー・カウフマンが「滝を眺めて暮らしたい」とライトに要望を出して実現した建築なのだ。
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結婚したばかりのアンジェリーナ・ジョリーが、ブラッド・ピットに滝をプレゼントしたというニュースがあったのをご存じだろうか?建築家でもあるブラッド・ピットはライトを敬愛していて、憧れである落水荘を模した建築をカリフォルニアにあるその滝に建てるのだとか。
アンジェリーナ・ジョリーが滝をプレゼントしたのが2012年のことだから、ブラッド・ピット版落水荘はもう完成しているのかも?自分の所有する滝の上に暮らし、気が向いたら打たれるなんて羨ましい!そもそもブラッド・ピットが滝に入るかどうかは知りませんけど。
とにかく、滝の姿は美しく、古来、世界中の人々を魅了してきた存在なのだ。眺めているだけでも素晴らしいのだが、そのエネルギーを感じるためにも、滝に打たれるという行為がある。
何も考えず、滝に打たれましょう
僕自身、初めて滝に打たれたのは伊豆半島の滝。真夏の川遊びにハマっていた頃だった。猛暑の日に川の流れに身をまかせては熱い岩の上で休むという自然の温冷交代浴。サウナと似たような効果を大自然の中で得られるものだから楽しくて楽しくて、一日中ループしていたのだ。
そんな時、上流部にある滝に打たれてみた。水の轟音とともに体を打ちつけられる衝撃があって、滝から出た時に「今まで何をしていたんだっけ?」と一瞬わからなくなるような、パラレルワールドから戻ってきたような感覚があったのだ。
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しばらく放心状態。やがて風がやさしく体を包み、頭の中に満たされていた滝音のノイズが弱まり静寂が訪れて、木々のざわめきと鳥や虫の声がフェードインしてきた時に、ものすごーく気持ちよさを実感したというわけだ。
緊張と緩和。冷と温。轟音と静寂。これの交代効果で完全にトランス状態。滝ってすごい……。
パカンッとすべてが開くのだ
さて、吐竜の滝に入ってみよう。水温計はないけれど、川に手を入れた感覚ではおそらくシングル水温。めちゃくちゃ冷たい!
落口から一番勢いよく出ているスポットに立って頭のてっぺんから水に打たれる。落ちてくる水に合わせて、水に貫いてもらうというか、水を体の中を通すような感覚で心地よいところを見つけると滝に溶け合っていけるようになる。凄まじい轟音と流水で、外界から遮断されるのだ。
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冷たさの限界を感じたら外に出て、岩に腰掛けて休憩、太陽の陽射しを浴びて体温が戻ってくる快感を感じる。やがて皮膚感覚は敏感になり、森をそよぐ風がこのうえなく心地よく感じられるだろう。すると、やがてパカンッ!と目も頭も体も心も開く瞬間が訪れる。……って、どれだけ興奮して語っているんだと思うかもしれない。でも、滝の力って本当にすごいのだ。
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あとは身体が求めるままに繰り返す。繰り返すほどに体が滝や周囲の自然と溶け合っていくような感覚が得られるだろう。でも、入りすぎには注意が必要。“こちら側”に帰って来れなくなるかもしれないから。