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キャラクターを描くことで示す、本当の多様性。アーティスト・たかくらかずきの社会への問いかけ

東洋思想とデジタルを掛け合わせた唯一無二の美術表現で、国内外問わず注目されているアーティストのたかくらかずきさん。〈GINZA SIX〉で展示した新作アートを基に、ポップなデジタル表現の奥に込めた社会への問いかけや、独自に提唱するキャラクター論を語ってくれた。

photo: Hikari Koki / text: Shoko Yoshida

〈GINZA SIX〉のパブリックアートを手がけたアーティストにインタビュー

この春、銀座の中央通りを歩くと、高さ約4mのアート作品に出会うことができる。画像がゲームのようにピコピコと動くディスプレイが立体的に組まれてできた像の名は、「ハイパーマン バン・ゴ・オー」(現在展示終了)。

商業施設の〈GINZA SIX〉が、春のプロモーションの目玉企画としてエントランスに出現させたパブリックアートで、手がけたのは、たかくらかずきさんというアーティストだ。異彩を放つデジタル作品で表現しているものとは一体?ご本人に話を聞けることに。

「私の作品はどれも、日本文化に脈々と伝承されている仏教や神道などの東洋思想が制作の軸になっています。ただ、現在の日本は、度重なる事件から宗教への警戒心が強いので、デジタルに昇華させてポップなビジュアルで伝えています。例えばハイパーマン像なら、密教において世界や宇宙の構成要素とされている“地(ち)・水(すい)・火(か)・風(ふう)・空(くう)”を投影してアニメーションを描いていますし、千手観音のように手のパネルを四方八方に伸ばしたり、仏教の菩薩である十一面観音をモチーフにして、様々な感情の顔文字をあしらったりしているのです」

顔文字や絵文字はほかの作品でも意識的に用いられており、その理由について、「絵文字には、表意文字である漢字と似た力がある」とたかくらさんは言う。

「“これ使うとおじさんっぽい”と言われるものもありますが、それは“意味”がある証拠ですよね。漢字同様、使われてきた文脈が絵文字に吸収・蓄積され、一個一個にキャラクター性が宿っているわけです」

絵文字やゲームキャラクターのように、ある世界観の中で多様な生態系が展開されることを、「キャラクター・マトリクス」と独自に名づけて提唱しているという。

「代表的なのは、ポケモンや、たまごっちです。誰がトップといったピラミッド型ではなく、個性を持ったキャラクターごとに生態系が“分散”されていますよね。それによって、何一つ否定しない世界が広がり、多様性が生まれているのは、ただ一つの正義・正解を求める方向性とは別の、複数の正義・正解を認めるあり方を象徴していると思うのです。それに、数の多さという観点は、仏像や妖怪、東洋の多神教神話にも共通するものがあるので、私の美術作品では、それらをルーツに持つたくさんのキャラクターを描いています」

ただ、ここで立ちはだかる壁がある。それは、以上のようなキャラクター論が現代美術史では語られていないということ。

「アーティストの村上隆さんが提唱した“スーパーフラット”以降、キャラクター=美少女風アニメと解釈され、先のゲームキャラクターなどはコンテクストに入っていなくて。でも、自分でアートをやる以上、既存の美術史をリスペクトしつつも、カウンター精神を持って挑みたい。なので、キャラクター・マトリクス論についてメディアに寄稿したり、それにまつわる企画展をキュレーションしたり、自己発信を大事にしています。言葉も作品の一部だと思うので、広範囲に活動していきたいですね」

「ハイパーマン バン・ゴ・オー」とたかくらかずきさん