相手を思って書けば、必ず伝わる!
ビジネス文書においてまず大事なのは、「伝える」ではなく「伝わる」ものであること。日記とは異なり相手に「伝わる」ものでなくては意味がありません。自著『バナナの魅力を100文字で伝えてください』でも書きましたが、この「伝える」と「伝わる」は、似ているようで違います。前者は自分主体であり、後者は相手主体です。
自分では伝えたつもりになっていても、相手にはちゃんと伝わっていなかった。そんな経験はないでしょうか?それは「伝わる」ことを重視しなかったことが起こした事態だと考えられます。それを解決するために押さえておきたいのが、「伝わる文章の7段構造」です。
まず1段目は、目的と相手を明確にすること。誰にどう伝えたいのかというゴールをきちんと設定することは、あらゆるビジネス文書に共通する重要なポイントだと思います。
そもそもビジネス文書の目的にはどんなものがあるのでしょうか?まずは伝達や連絡が考えられます。打ち合わせの日程を伝えたりするものです。次が、依頼や交渉。上司や取引先を口説くのはこれに該当します。最後が謝罪や辞退。ビジネス文書の目的は、大きくこの3つに分けられると思います。
それぞれの目的に合わせて書き方は変わってくるわけですが、とにかく今自分の書こうとしている文章の目的がどれに当たるのかを、まずは明確にすること。そのうえで、相手は誰であるのかをしっかり念頭に置く必要があります。
相手の顔を思い浮かべ最適な文章を書く
以後、依頼や交渉を目的とした、社内向け企画書の例を、お話ししていきましょう。私も決裁者として知人や自社の社員から企画書を受け取ることがあります。この場合、決裁者の顔が見えていて、かつ勝手知ったる仲ですから、あまりきっちりした文章や、長い説明は必要ありません。ただ、時に自分の癖で非常に詳細に説明した企画書になっていることがあります。
するとどういうことが起きるかといえば、企画書を読まず、「結局どういうこと?」と口頭での説明を求めることになる。相手が設定できてないと、せっかく文章を書くために割いた時間が無駄にもなりかねません。もちろん、これはケースバイケースで、相手が長い説明を求めるのならそうするべきでしょう。それも含めて、相手をしっかり設定して書くのが大事なのです。
以降の構造については要点だけ述べますが、2段目は、納得感を与えること。3段目は、あくまで相手ベースで書くこと。4段目は五感を言語化するなど相手の頭の中に「見える化」させること。5段目は「聞く力」を駆使して、相手の求めることを考えること。6段目は相手が親近感を持てるように書くこと。そして、7段目は相手の信頼感が得られるように書くこと、と続きます。
以上を踏まえつつ、その具体的な活用法を解説していきましょう。
キャッチーなキーワードでタイトルに親近感を
まずはタイトルのつけ方について。タイトルの目的も、いくつかに分類できますが、企画書の場合は決裁者の関心や興味を引くことでしょう。その場合、役に立つのが、体言止め。実際、ウェブ上のPV数の高い記事のタイトルには、よく使われています。ちなみに、体言止めは本文中でも使い方によっては、文章にインパクトやリズムを演出することができます。また、数字やキーワードを入れるのも、タイトルの強度を上げるためには有効です。さらに、タイトルをキャッチーにしていくことは、相手が関心や親近感を持てるようにするうえでも効果的です。
続いて本文に入っていきます。まず念頭に置いておくべきは、文章を読んでもらうのは、相手の時間を奪うことでもあるということ。ですので、ビジネス文書においては、回りくどい表現はせず、基本的には結論を最初に示す「結論ファースト」で書くことが大事だと思います。
ただし、時に「結論ファースト」が逆効果になってしまうビジネス文書も存在します。それが断りや謝罪を目的としたもの。相手が原因や背景などをわからない段階で、いきなり結論を伝えることにリスクがある場合は、「結論ラスト」が向いているケースもあります。
また、決裁者がその企画の価値をすぐに認識できないと思われる場合は、結論を伝える前に、補足する言葉として「フリ」を入れていくのも有効です。例えば、新大久保にカフェを造りたいとします。しかし、決裁者が現在の新大久保に若者が押し寄せている情報を知らなそうであれば、「今、Z世代に大人気の~」といった言葉で補足してみるということです。ただし、フリはできるだけコンパクトに。フリが長くなると、「結局、何が言いたいの?」となってしまいかねません。
そして、企画のイメージを相手の頭の中に「見える化」させ、納得感を高める方法としては、「たとえること」が効果的です。相手に「なるほど」と思わせることができます。例えば、先日住宅業界の方と話していたときのこと。その方はご自身の会社がいかにすごいかを語ってくれたのですが、住宅業界の事情に明るくない私は「なるほど」と頷きつつも、いまいちイメージしきれない部分がありました。
そんなとき、その方が「つまり、住宅業界のユニクロみたいなものです」というたとえを出してくれたことで、私にもすごさが腑に落ちたんです。つまり、すごさの解説としての「なるほど」と、身近なたとえによる「見える化」の掛け合わせで、私も立体的にイメージができました。こうした掛け合わせを活用すると、相手の理解度も上がっていくと思います。
第三者からの忌憚のない意見をもらうことも重要
しかし、タイトルにキーワードを入れたり、キャッチーなたとえを入れたりすることは、文章に関心を持ってもらったり親近感を与えたりするのには効果的ですが、場合によっては信頼感を損なうこともあるので、注意しましょう。ここでもやはり、相手によってそのバランス感を見極めることが肝心なのです。
では、信頼感はどのようにして得られるのでしょうか?一つは、「外部力」に頼ること。要するに、客観的なデータを用いたり、別の事例と比較したりすることです。企画書のゴールは決裁者にイエスと言わせることですが、データや比較をうまく取り入れてノーと言う理由をなくしていくというわけです。
また、まず目の前の人が決裁した後、その企画書が社内で独り歩きする可能性がある場合は、チャプターに分けるのもおすすめです。第1章では、顔が見えている決裁者に向けて簡潔かつ本質を突いたことを書き、第2章では、データをはじめとする資料をまとめておく。そうすれば、のちに読むかもしれないその他の人から「エビデンスは?」とつっこみが入りにくくなると思います。
あと、文章を書くテクニックではありませんが、完成したものを信頼の置ける第三者に見てもらい、ブラッシュアップするというのも大事だと思います。私自身、本を執筆しているとき、担当編集者に「気を使わずに思ったことを言ってほしい」と頼みましたが、それによって得られた指摘のおかげで、より「伝わる」文章に仕上がったと思っています。自分だけで考えていたのでは気づけない部分もあるので、提出する前に忖度(そんたく)しない第三者から意見をもらうことで、より伝わる文章を書くことができます。
もちろん、ここまで話してきたルールが通用しない場合もあるでしょうが、何より大事にするべきなのは、読み手のことを考えること。それはラブレターを書くことに近いかもしれません。ラブレターがそうであるように、ビジネス文書も出来合いのフォーマットをあからさまに埋めただけのようなものでは、相手に届きません。
だから、読み手を常にイメージするために、その人の写真を目の前に置いて書くなんていうのもありかもしれません(笑)。とにかく相手ベースの文章を書くことを忘れず、そのうえで紹介したようなテクニックを適宜使用すれば、きっと「伝わる」ビジネス文書が書けるはずです。
伝わる文章の7段構造
①ビジネス文書は、目的と相手の設定が大事
ビジネス文書の目的は、「伝達や連絡」「依頼や交渉」「謝罪や辞退」と、大きく分けて3つある。まずどれに当たるのかを設定することがスタート地点。そのうえで、それをどんな相手(よく知っている間柄の人なのか、初めてコミュニケーションを取る人なのか)に向けて書くのかを明確にする。そして、その目的や相手によって、よく知っている間柄なら簡潔に、初めての人なら丁寧に説明をするなど、伝え方にもアレンジを加えながら書くべし。
②相手が納得感を得られるように
納得感があって、初めて「伝わる」が生まれる。相手がこちらの訴えたいことを理解し、腑に落ちるような文章を心がけよう。せっかく時間をかけて書いても「あなたの言っていることがよくわからない」と納得感のレベルで拒絶されるのではもったいない。この段階では、せめて「あなたの言っていることはわかるけど、そうは言っても難しい」という「理解はした」というレベルまで持っていくために工夫を凝らすこと。
③相手ベースで伝わるまで伝える
子供と大人ではコミュニケーションの取り方を自然と変えるように、ビジネス文書でも相手に合わせて伝えることが大事。日頃から社内で接していると、同じビジョンを共有していると勘違いしがちだが、人間同士がわかり合うことはそんなに簡単ではない。その前提を忘れず、可能な限り相手の側に立って書くこと。また、過去に一度言ったからわかっていると思い込まず、必要なことであれば何度でも念押しすることも忘れずに。
④五感を言語化して相手にもイメージが見えるように
「伝わる」ためには、相手の頭の中に具体的なイメージが浮かぶように書くことが何より重要だ。逆に、頭の中にイメージが浮かんでいない場合は、伝わっていない可能性が高い。しかし、それはただ中心的なイメージの説明に言葉を尽くせばいいというわけでもない。人気グルメレポーターが味を伝える際、味だけではなく匂いや見た目についても語るように、時に五感を総動員して言語化していくと、より立体的に「見える化」することができる。
⑤聞く力を駆使して相手の求めることを考える
とある営業のプロによれば「営業の仕事は“自分たちの商品を売る”のではなく、“相手に必要な商品を紹介する”こと」だという。これは対話コミュニケーションにおける「伝わる」技術だが、勝手知ったる相手に向けたビジネス文書の場合なら応用可能だ。つまり、日頃の相手との対話の中から、それぞれの人の「刺さるツボ」を把握し、そこに売り込むようなキーワードを盛り込むことができれば、伝わり方の解像度は自然と上がっていく。
⑥相手が親近感を持てるように書く
ビジネス文書といっても、かしこまればいいとは限らない。時にキャッチーな言葉やカジュアルな表現を入れ、親近感を持たせるべし。親近感も「伝わるか伝わらないか」の重要な要素だからだ。そうすれば相手の心と脳が「受け入れるモード」になり、少しの瑕疵(かし)なら見逃して「イエス」と言ってくれる場合もある。ただし、あまりに崩して書かない方がいいケースもあるので、相手や場を考えて、親近感を盛り込むべきか否かしっかり検討しよう。
⑦相手の信頼感が得られるように書く
ビジネス文書には親近感が大事になることもあるが、それだけで押し切ると相手に軽薄感も与えかねない。そのとき重要となるのが、信頼感も同時に与えることだ。信頼感を得る方法は、主として2つある。一つはデメリットがある場合はそれも書くこと、もう一つはデータなどの「外部力」を活用して説得力を高めること。なお、親近感と信頼感のバランスは、相手をイメージしながら適宜調整していくべし。
伝わる文章の9つのテクニック。具体的な数字を入れる
①具体的な数字を入れる
タイトルには具体的な数字を入れると、スペシャル感が出る。この場合、ただ「日本人がよく食べる」ではなく、「一番食べている」と書くことで、バナナが「日本人がよく食べる数多くの果物の一つ」というだけではなく、「その中でもナンバーワンなのだ」というインパクトが付加される。
②キャッチーなキーワードを入れる
この場合、「バナナ専門店オープン計画」でも意味は十分に通じる。しかし、「大作戦」というキャッチーなキーワードを使用することで、相手の関心を高めると同時に、親近感を持たせる効果がある。ただし、このキャッチーさが通じる相手かどうかは見極める必要がある。
③結論の前にフリを置く
5で説明しているように、企画書は基本的に「結論ファースト」。しかし、企画書の趣旨がストレートに理解されない可能性がある相手の場合は、その企画に対しての興味を引くための「フリ」を入れるのも効果的だ。この場合、「ご存知ですか?」という「フリ」を採用している。
④体言止めにする
要所要所で体言止めを使うことも、相手の興味を引くことにつながる。ただ、「答えはバナナです。」と書くのも間違いではないが、「バナナ。」とすることで、文章にインパクトやリズムが生まれる。タイトルで使用するのも効果的であり、本書が「大作戦!」となっているのは、そうした事情による。
⑤結論を最初に伝える「結論ファースト」に
ビジネスの現場では「説明がうまい人は結論から話す」とよく言われるが、文章もまたしかり。実際、結論がわからないまま理由や説明を綴ることは、読み手にストレスを与える可能性がある。したがって、まず結論を簡潔に書いてから、その理由を説明するという流れを、意識しておこう。
⑥データを入れる
伝わる文章においては、信頼感も重要だ。そのために役に立つのが「外部力」を導入することで、データを参照するのもその一つ。自分自身の言葉だけでは説得力に欠ける場合などは、客観的なデータをエビデンスとして示して補強することが、読み手に信頼感を与えることになる。
⑦事象と感情を掛け合わせて「見える化」する
すぐには理解できない話(事象)をしなければいけない場合、その直後で感情に訴えかける身近なたとえを用いて、事象の意味を「見える化」してあげるのも、伝わる技術。この場合は、あらゆる面で栄養価が高いという話を、オールラウンドプレーヤーである大谷翔平にたとえて「見える化」している。
⑧比較する
比較もまた、関心や興味を得る手法だ。同じバナナであっても、ジュース専門店に関しては増加を続けているという情報を伝え、「それと比較して」という意味で、「にもかかわらず、バナナ専門店はほとんど存在しない」という企画のポイントを際立たせられる。
⑨チャプターに分ける
企画書が社内で独り歩きする場合は、チャプター分けして、第1章では企画を直接提出する相手に向けて簡潔に概要を記し、第2章でその後に見る人たちの判断材料としてデータなどのグラフを添付する。そうすれば、グラフ類が必要のない人は見なくて済む、より相手ベースの企画書になる。
断りや謝罪は、結論ラスト
断りや謝罪の文に関しては、結論をラストに持ってくるのが好ましいケースも。とりわけ、相手が感情的になりそうな場合は、最初にネガティブなことを明記してしまうと、その先を読まずに感情を爆発させかねない。まずは経緯の説明を丁寧にしたうえで、断り、謝罪の言葉を述べる。ただし、場合によっては先に謝罪した方がいいケースもあるので、相手に合わせて使い分ける。