B級グルメとミシュランの関係
雞排(フライドチキン)に香腸(腸詰め)、蚵仔煎(カキオムレツ)……。台湾の夜市と言えば、買い食いしたり、屋台でサッと食べられるローカルグルメの宝庫。言葉がわからなくても、目の前の料理を知らなくても、ノリと気合いで楽しめる。
そんな夜市に、ミシュランのビブグルマン(コストパフォーマンスがよく、値段以上に満足できるおすすめ店。台湾では1,000元以下で設定)に選ばれる店があるのをご存じだろうか?2022年版の台北で選ばれたのは、8つの夜市から21軒。エリア間の格差があった当初とは打って変わり、ここ数年はそれぞれ2~3軒でバランスをとっている気配も。
「一晩のうちにミシュラン店をハシゴしたい!」。そう意気込む取材班としては、どの夜市に行くのが一番いいのか?熟考の末、セレクトしたのはあえて観光客がほとんど行かない、いや台北っ子でも地元以外の人はまず訪れないという超ローカルかつディープな〈南機場夜市〉。検証のしがいがあるというものである。
空回りする取材班と臭くない臭豆腐
かつて空港があったことから、「機場」の名がつく夜市があるのは台北市の西南。台鉄萬華駅、MRT龍山寺駅といった最寄り駅からいずれも歩いて1km以上の距離があり、いわゆる観光スポットからも離れているので、地元感&下町感あふれる雰囲気が漂う。
ネオンで彩られた正面ゲートから、まっすぐ100m以上続くメインストリートに屋台が立ち並び、その左右に延びる道に路面店などが軒を連ねる構成。ここでの頼りは、もちろんGoogle Mapである。
まず目指したのは、ゲートからもっとも近い台湾クレープの店〈吾旺再季〉。しかし、われわれはここで重大なミスを犯していたことに気づく。21時までは営業しているはずの店が、この日は売り切れのため早じまい。前の取材の試食をわいわい楽しんでいた1時間前の自分たちを恨むことに……。
焦ったコーディネーターは、早足で次の焼き餅屋〈無名推車燒餅〉へ。「やってる!」と喜んだのもつかの間、定番商品はすべて売り切れで、限定販売していた焼き小籠包が3個残っているのみだった。
さて、気を取り直して向かったのは、〈臭老闆現蒸臭豆腐〉。力強いフォントで「臭豆腐」と描かれた暖簾が燦然と掲げられている(喜)。臭豆腐とは、独特のニオイのする(くさやに近い)発酵液につけた豆腐を揚げたり、煮たり、蒸したりして食べる料理。好きな人にはたまらないが、そうでない人にはなかなかハードな一品である。
ここで供されるのは、蒸した臭豆腐。隣に座ったカップルは、ご飯もビールもなしに、まるでかき氷を食べるかのごとく楽しそうに臭豆腐をつつき合っている。その謎は一口食べた瞬間にわかった。蒸すことで発酵液の威力が薄まり、もはや醬油が効いたおでんのよう。飲み込んだ瞬間、ほのかに“あの香り”が鼻を抜ける程度である。
これなら食べ慣れない日本人でも安心してトライできる。だが、しかし、生粋の台湾人コーディネーターは、「これは臭豆腐なんだろうか」と困惑の様子を隠せない。同行した編集者も物足りなさからか、正体も知らずに“大腸包小腸”を買い込んでいる。正解は、腸詰めしたもち米で香腸を挟んだ一品、つまりライス(ホット)ドッグ。「えっ、大きなソーセージで小さなソーセージを包んだものじゃないの?」とのたまう編集者の声を背後に聞きながら、混迷の一夜は更けていったのである。
帰国前夜に再び挑戦した結果は?
頂上決戦は、われわれの帰国前夜に決行された。一晩のうちにミシュランを3軒豪遊するという野望は潰えたが、スタンプラリーは完遂しておきたい。万障繰り合わせたにもかかわらず、再び〈南機場夜市〉を訪れたのは、木曜夜の19時30分。ギリギリである。
小走りで向かった私たちの目の前に現れた〈吾旺再季〉は、絶賛営業中だった。ここは、潤餅と呼ばれる台湾クレープの専門店。薄く焼いた生地で、カレー味に煮込んだ大根やもやし、豆腐干、揚げた豚肉など10種類ほどの具材を巻いており、パクチーとピーナッツパウダーが味のアクセントになっている。
断面を撮影したいと言ったら、包丁でキレイにカットしてくれたご主人のやさしさに感謝しつつ、次の〈無名推車燒餅〉へ。遠くに目印の行列(焼き上がるのに時間がかかるため、たいてい行列しているらしい)が見えた瞬間、軽くガッツポーズをしたことは言うまでもない。
実はこの店、無名とある通り店名はない。推車はリヤカーの意味。だが、Google Mapと行列、そして夜市の自治会がつけている立派な看板を目印にすれば、簡単に辿り着く。店名がないのに、なぜ看板があるのかという指摘はこの際置いておこう。
小さな窯で焼き上げられるのは、ネギ入りの長焼餅、豚肉とネギが入った鹹酥餅、小豆入りの紅豆餅、砂糖蜜が入った甜酥餅の4種類でいずれも15元。世界一安価なミシュラングルメという評判はダテじゃない。
今回、ローカル感あふれる〈南機場夜市〉で、タイプの異なる3つのビブグルマンを食べた結果わかったことは一つ。屋台の閉店時間は、売り切れなどで容易に繰り上がるということ。夜市を訪れるときは、時間に余裕をもって行くことを心からオススメする。