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安藤忠雄の展覧会『青春』が大阪で開催中。ヴァーチャル空間で、あの建築を体感しませんか?

国内8年ぶりとなる安藤忠雄展のタイトルは、ずばり『青春』。50年以上、最前線を走り続けてきた巨匠の過去・現在・未来の作品群をさまざまなコンテンツで紹介する。なかでも最新技術を駆使した映像作品は必見。建築を訪れたことがある人も、まだの人も楽しめる没入体験が待っている。

photo: Takemi Yabuki (W) / text: Ai Sakamoto

建築を知らない人でも楽しめる展示を目指す

2024年9月の先行まちびらき以来、多くの人でにぎわう〈グラングリーン大阪〉。その中心を占める〈うめきた公園〉の一角に、建築家・安藤忠雄が設計監修を務めた文化装置〈VS.(ヴイエス)〉はある。3つのスタジオと約560㎡の多目的ホールで構成される建築は、景観への配慮から大部分を地下に埋設。ガラスの箱とコンクリートの箱の一部が地上に顔をのぞかせているだけだ。

その前面に広がる芝生公園に、直径2.5mもの青りんごのオブジェ《永遠の青春》が出現したのは今年3月のこと。7月21日まで〈VS.〉で開催されている『安藤忠雄展|青春』のシンボルとしてゲストを出迎えてくれる。

青りんごのオブジェ
〈VS.〉前にお目見えした青りんごのオブジェ。中央に、《永遠の青春へ》と書かれた安藤のサインが見える。

国内では8年ぶり、大阪では実に16年ぶりとなる展覧会の開催について、安藤は「建築家として育ててくれた社会、大阪に報いたい」という思いがあると説明する。

「私のような規格外の人間が建築家として成功できたのは、大阪の自由でおおらかな風土があったからこそ。何者でもなかった若者を受け入れ、チャンスを与えてくれた。しかし、東京一極集中につれて随分と弱体化しているのも事実。今回の展覧会が、そんな大阪の空気を少しでも盛り上げ、元気づける機会になればと思っています」

〈VS.〉外観
〈VS.〉外観。右のガラスの箱には1階エントランスとカフェ、コンクリートの箱にはメインのスタジオを内包している。

約60のプロジェクトに関するスケッチやドローイング、模型など230点あまりを展示する今展。会場は大きく2つのゾーンから成る。

観客がまず訪れるのは、1969年のデビュー以来積み重ねてきた安藤のキャリアを振り返る「挑戦の軌跡」。コンクリートで精巧につくられた《住吉の長屋》の模型や、教会三部作(大阪《光の教会》、神戸《風の教会》、北海道《水の教会》)のドローイング、木製模型など初期代表作を一望できる。

「挑戦の軌跡」の展示風景。
「挑戦の軌跡」の展示風景。壁沿いに国内の初期代表作、中央にその後の代表作を展示している。

今展では、建築をあまり知らない人でも楽しめる展示を目指したという安藤。

「建築や建築家の展覧会で出展されるのは、基本的にはスケッチやドローイング、模型など。本来の作品であるはずの建築がその場にないため、わかりづらいと思う人も多い。そこで私は、数年前から建築空間を会場に1分の1で再現するインスタレーション展示を試みています。2017年に東京の〈国立新美術館〉で開催した展覧会では、《光の教会》。今回は、私が自然との対話をテーマに考えた最初期の作品《水の教会》を再現しました」

天井高4.5mのスタジオBに一歩足を踏み入れると、そこは《水の教会》の礼拝堂。会場内に設けられた水盤には十字架が浮かび、その向こうに巡る季節が投影される。映像に合わせてそよ風や虫の声、鳥のさえずりといった自然音も流れ、見る人を北の大地へといざなう。

3つの安藤建築へ没入できる、映像インスタレーション

次は、最近作と現在進行中のプロジェクトを紹介する「安藤忠雄の現在」へ。「つくる/育てる」「都市ゲリラ2025」「時間をつなぐ」「37年目の直島」「こども本の森」「大阪から」といった6つのテーマに沿って展示されている。

「安藤忠雄の現在」展示風景
「安藤忠雄の現在」では天井高5.9mの多目的ホールを使用。展示と同様、安藤建築も体感できる。

《ベネッセハウス ミュージアム》から5月31日に開館予定の《直島新美術館》まで、直島での37年の軌跡を模型と映像音楽のインスタレーションで表現した「37年目の直島」や、1988年に発表された《中之島プロジェクトII》の長さ10mにもなる2点のドローイングと模型が並ぶ「大阪から」、18世紀にフランス・パリで穀物取引所として建てられた歴史的建造物を美術館へと転用した《ブルス・ドゥ・コメルス》の30分の1スケール模型など、見どころは多い。

海に浮かぶ「37年目の直島」展示風景
海に浮かぶ「37年目の直島」。直島で安藤が手がけた10のプロジェクトが紹介されている。

そうした展示の最後を飾るのが、映像インスタレーション「安藤忠雄の建築」だ。天井高15mにも及ぶキューブ型スタジオの3面に、《ブルス・ドゥ・コメルス》《光の教会》、北海道・札幌の郊外にある《真駒内滝野霊園頭大仏》のオリジナル映像を映し出す没入体験型で、時にドローンを駆使した超高精細な8K映像が迫りくる。

いつもとは異なる視点で触れる建築に心を澄ませていると、次の瞬間、圧倒的な没入感とともに建築の内側へと引き込まれていく。初めて見る人はもちろん、訪れたことがある人でも、まったく違う体験ができるから不思議だ。

ブルス・ドゥ・コメルス
《ブルス・ドゥ・コメルス》では、パリの古い町並みから内部、そして安藤が展示空間としてインストールしたコンクリートのシリンダーへと視点が移る。

詩人サミュエル・ウルマンによる「青春とは人生のある期間ではない、心のありようなのだ」という詩の一編を受けて、「生きている限り青春である」と語る安藤。世界のANDOの半世紀にわたる“青春の証し”がここにある。