横尾忠則と「音楽」
国内外で活躍し、89歳を迎えてもなお精力的に作品を生み出し続ける美術家・横尾忠則。広告やポスター制作から抽象画まで多岐にわたるジャンルで制作してきたことから、「越境するアーティスト」としても広く知られる。そんな彼の膨大なアーカイブのなかから「音楽」との関わりにフォーカスした《TADANORI YOKOO with MUSIC》を、新宿〈BEAMS JAPAN〉5階の〈B GALLERY〉にて2025年7月11日(金)より開催する。
会場では〈The Beatles〉や〈Earth, Wind & Fire〉などのミュージシャンに提供したジャケットデザインのほか、JASRACや楽団の演奏会ポスターなどを展示、販売。さらに神戸にある〈横尾忠則現代美術館〉所蔵のレコードジャケットコレクションの一部も並ぶ予定だ。
近年は宗教観や死生観、肉体をモチーフにした作品を多く発表している横尾だが、1970年代から90年代にかけてはレコードやCDジャケットのアートワークを数多く手がけてきた。今回の展示では、ロック・カルチャーに精通し、ミュージシャンたちとの親密な交流を持つ横尾と音楽との強い結びつきが感じられる。

横尾忠則が手がけたJASRACのポスター。日本音楽著作権協会の堅いイメージを覆すポップでカラフルなデザインが印象的。
横尾忠則と1970年代ミュージシャンとの深い関わり
横尾忠則がグラフィックデザイナー、イラストレーターとして活動し始めたのは1960年代のこと。カラフルでサイケデリックなポップカルチャーを反映した個性的なデザインや異素材のコラージュ技法によって、展覧会に並んでいたポスターがニューヨーク近代美術館に全て買い上げられるなど、たちまち世界的に認められるようになり、活躍の場を広げていった。
〈The Beatles〉のポスターは、横尾が勢いにのっていた1973年に東芝EMIからの依頼で制作。1969年にジョン・レノンの自宅で撮影された写真をモチーフにしたもので、4人の髪のリアルな筆致からは、まるでその日に吹いていた風を感じられるかのよう。その一方で、その後の彼らの解散を予期させる影のようなものを映し出している。
1974年、横尾はビートルズに触発され、そして三島由紀夫の強い勧めでインドへ1ヵ月弱渡航する。この旅で彼は宇宙、自己、自然、芸術といったテーマを深く考察。自身が手がけるグラフィックデザインでも、精神世界、宗教世界を感じさせつつもどこかポップでカラフルな世界観を確立していった。

1973年、東芝EMIからの依頼で制作されたビートルズのポスター。ジョン・レノンの自宅で撮影された写真をモチーフに、4人の髪の毛のリアルな筆致が特徴的。その後の解散を予期させるような影も感じられる名作。
宇宙的な色彩感覚と東洋思想を融合させた作風、1976年に制作した「Earth, Wind & Fire」にもよく表れている。まるで曼荼羅のような構図でメンバーを描いたこの作品では、宇宙とロックが融合。この後、横尾は1993年に同バンドが発表したアルバム『千年伝説』のジャケットも担当した。
なお、同時期に横尾がアートワークを手がけたミュージシャンのなかには「ジャズの巨人」とも称されるマイルス・デイビスや、郷ひろみ、山口百恵らがいる。さらに、当時イエロー・マジック・オーケストラとして活動していた細野晴臣とも親交を深めてきた。今回の展示では、横尾と音楽との関わりの源流を感じ取れるはずだ。

前衛音楽の巨匠・一柳慧とのコラボレーション作品。横尾忠則自身をテーマにしたオペラのポスターデザイン。
横尾忠則と〈BEAMS〉
〈BEAMS〉と横尾は、長年にわたりアートとファッションの垣根を越えたパートナーシップを築き、日本のカルチャーを世界に向けて発信してきた。たとえば〈TOKYO CULTUART by BEAMS〉では、横尾作品をデザインに落とし込んだTシャツやバッグ、小物を企画・販売。生活に馴染むアイテムに落とし込みながら、横尾作品を身近なものにしてきた。
その一方で、日本の手仕事の魅力を国内外に伝えることをコンセプトにした〈BEAMS JAPAN〉では、2016年の新宿店のオープン時に横尾のデザインによる手ぬぐいを限定記念品として制作。横尾が日本を代表するアーティストであることをあらためてアピールした。
〈BEAMS JAPAN〉内の〈B GALLERY〉では、2023年から「THE POSTERS OF TADANORI YOKOO」や「TADANORI YOKOO Y-Junction」などテーマを変えながら横尾の作品展を連続で開催してきた。今回の展示《TADANORI YOKOO with MUSIC》を通じて、横尾と音楽の深い関わりをぜひ紐解いてみてほしい。