旅人たちの窓辺。写真家・野川かさねが撮る、山小屋の窓

photo: Kasane Nogawa / text: Yuriko Kobayashi

窓は旅情をかき立てる。移動中のふとした瞬間に出会う美しい景色は窓とともに記憶され、窓から差し込む光が訪れた場所の思い出を特別なものにする。写真家・野川かさねが語る、忘れられない旅の窓。

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山小屋の窓

20年近く登山をしていても、怖さや不安がなくなることはありません。山を歩き、その先に小さく山小屋が見えた時にはいつも安堵して、自分が守られていると身にしみて感じます。山小屋の中の窓からは光や雨、雪、風に揺れる木々などが見えて、刻々と変化する山の空気を感じます。それらを体で味わうことが自然の中に身を置く醍醐味ですが、そこにはやっぱりそこはかとない怖さがあって……。

ヒマラヤ地域の山小屋。キッチンの窓にガラスはなし。外の空気や音、匂いが入り込み、料理の香りが流れ出ていく。
八ヶ岳の山小屋。部屋と外の温度差で生まれた結露が、外の寒さを教えてくれる。

山小屋の窓は外と内、山と自分の間にあって、安心感を与えながら両者を繫いでくれるもの。完全に遮断してしまうのではなく、光や風景を介して、ゆるやかに山と自分が混じり合っていく。そんな「あわい」としての窓を感じた時、シャッターを切ってしまうのです。


冬の八ヶ岳。外から山小屋の窓を見ると頼もしく、安堵の気持ちが湧いてくる。
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