養成所開始から2年目。卒業生の有志11名から成る新ユニットで、夏に公演も
2024年4月開講の『コクーン アクターズ スタジオ』(以下CAS)の受講生は、オーディションで選ばれた10〜20代の役者の卵。松尾さんが育成にかける思いとは。
「現役感は落ちるし偉そうだし、若手を育てない人の気持ちはわかる」と松尾さん。しかし、避けられぬ“焦り”があるという。
「未来の役者に、自分の演技の美学やスピリッツを伝えたい。この世界に37年いるからこそ、立ち居振る舞いでしか教えられないこともあります。ですが年齢的に、肉声と体で教えられるのは、せいぜいあと10年。その瀬戸際が、自分をかき立てる。今が教える“旬”なんです」

CASでは、松尾さんをはじめとする演劇のエキスパートが、演技、歌、ダンス、パントマイム、時代劇の所作などを1年かけて演習。しかし、教えはそれだけではない。
「一人前になるには、社会性も不可欠。結局、様子がいい人が生き残っているという事実を、人格否定はせずに伝えたいなと。僕は何も教わらずに仕事を始め、尖っていたのでなかなかの遠回りをしてね(笑)。最短コースはもちろんないですが、余計な遠回りはさせたくないんです」
卒業時には、松尾さんが脚本を書き下ろし、全受講生が出演する舞台を〈Bunkamuraシアターコクーン〉で上演。名のない役柄を演じるアンサンブル役者を描いた群像劇『アンサンブルデイズ−彼らにも名前はある−』は、シニカルな笑いとリアリティとが混ざり合い、観た人の心を捉えた。
「期待以上の反響で、道半ばの彼らの自信となり、60歳を過ぎた僕には“まだできるぞ”という救いになった。ある意味、彼らから“生きる糧”をもらったのです」
今の日本は、知見や教訓を渡す側も渡される側もいやに保守的。だが、世代間の交わりが、互いを豊かにするのかもしれない。
