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須川崇志と考えた、ジャズの入口〜THIS IS MY STANDARD〜

4月14〜17日に開催されるジャズフェスティバル「BRUTUS JAZZ WEEKEND 2023」の会場である南青山〈BAROOM〉。そこで行われる人気企画“THIS IS MY STANDARD”は、アーティストがそれぞれ考えるスタンダードについてトーク&演奏する企画だ。今回「BRUTUS JAZZ WEEKEND 2023」に出演する現在のジャズシーンを牽引する6人のアーティストに、自らが考えるスタンダードとそれを体現する曲について語ってもらった。第4弾は、石若駿と林正樹とともにBanksia Trioを主宰、ソロ演奏での活動も盛んなベース奏者の須川崇志さん。

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corporation: Atsuko Yashima / text: Katsumi Watanabe

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現在はピアニストの林正樹さん、ドラマーの石若駿さんとともにBanksia Trioのベーシストとして活動する須川崇志さん。

4月14日から17日に南青山〈BROOOM〉で開催される「BRUTUS JAZZ WEEKEND 2023」。その最終日である17日、フェスの締め括りとしてBanksia Trioとして出演が決定している。

トリオでの活動以外にも、ベースソロの単独公演からメジャーアーティストのサポートまで。幅広い活動を展開する須川崇志さんのジャズの入口は、同時に普遍的なジャズの音楽的な魅力にもつながっていた。

須川崇志のジャズの入口〜THIS IS MY STANDARD〜

Bill Evans Trio「Alice In Wonderland」
Miles Davis All Quintet 「Solar」
Dave Holland「Solar」

家に眠っていたジャズの名盤を発掘

11歳からチェロを始め、18歳でコントラバスの演奏を始めたという須川さん。1990年代後半の中高生の頃は、クラシックを学んでいた一方で、同級生とともにロックバンドでエレキベースを弾いたり、DJカルチャーに触発されターンテーブルを買ったりと、雑多に音楽を摂取していたそう。そんな青春の1ページの中でブルース、そしてジャズに出会った。

「同級生とバンド活動をしている最中、幅広いジャンルの音楽を聴くようになったんです。バンドメンバーだった友達がジミ・ヘンドリックスやボブ・ディランが好きだったので、カバーするうち、自然にブルースを聴くようになっていました。同時期にはDJカルチャーが浸透していて、僕もご多分にもれずターンテーブル2台とミキサーを手に入れて。BPMをあわせて2枚のレコードをミックスして、つないでみたいと思ったんですよね(笑)。

それで石野卓球さんのレコードを買ってみたりしました。そんな中で“あれ?うちにも親のレコードがあったな”と思い出したんです。ずっと放置されていたレコードを漁ってみたところ、その中にビル・エヴァンス・トリオの『Sunday at the Village Vanguard』(1961年)や『Waltz for Debby』(1961年)など、ジャズのレコードがあったんです。普段は音楽なんか聴かない母でしたが、実は学生の頃にジャズ喫茶が流行っていて、そこでおすすめされて買ったレコードを捨てずにいたそうなんです。聴いてみたところ、すごくおもしろくて、そこからはジャズばかり聴くようになりました」

普遍的な名曲をジャズにしたビル・エヴァンス

ビル・エヴァンスやマイルス・デイヴィスなど、いきなりモダンジャズの名盤と出会えてしまったことは、偶然とはいえ幸運としか言いようがない。

「一番最初におもしろいと思ったのは、ビル・エヴァンスの『Sunday At The Village Vanguard』に入っている「Alice in Wonderland」のカバー。ディズニーアニメ『不思議の国のアリス』のタイトルテーマで、誰でも一度は聴いたことのあるメロディでしたが、冒頭の部分で主旋律を弾いたら、あとはほとんど即興演奏。子供向けの曲という認識がありましたが、それが「こんなカッコいい曲になっちゃうんだ!」という驚きがありました。それからいろいろな人がカバーする「Alice in Wonderland」を聴いてみたんですが、どれもだいぶ違う。特にミロスラフ・ヴィトウスの『Emergence』に入っているソロベースの演奏は衝撃的でした。同じ曲なのにこうも違うのかと。この体験が入口になって、いろいろなジャズのレコードを聴くようになりました。

「Alice In Wonderland」
「Alice in Wonderland」は、名盤『Sunday at the Village Vanguard』(1961年)に収録。「タイトル通り、ライブ録音なので、観客のノイズを拾っていたりして(笑)。かなりラフだけど、リラックスした雰囲気も伝わってくる。こういう会場だったからこそ、ある意味実験的なことが可能だったのかもしれません」(須川)。

マイルスのキャッチーさと中毒性

耳に残るキャッチーな曲はもちろん、気がつけば意識は、どんどんベースの演奏へ。

「僕はいまだに頭の中でよく鳴るメロディがあって、それがマイルス・デイヴィス「Solar」なんですよ。なぜ耳に残るのかと考えてみたんですが、冒頭のたった4つの音から成るシンプルなメロディのモチーフを、最大限に引っ張っているんです。旋律を残しつつ、アドリブで音を挟んだり、ピカソの絵みたいに視点を変えたり構成要素を入れ替えたりするようなアプローチで音程を変えるなど、こねくり回しながら演奏するのもジャズの特性なんですよね。この曲はマイルスの名曲のひとつで、ビル・エヴァンスほか、いろいろな人がカバーしています」

「それから『Solar』は、ベーシストのデイヴ・ホランドがドイツの名門ECMから発表した『Emerald Tears』(1978年)の中で、ベース一本でカバーしています。マイナーのブルースの曲を、とにかく男らしく弾きまくるという。すごくカッコいいので、僕自身がソロ演奏するとき、ひとつの目標みたいな演奏になっています」

マイルス・デイヴィス「Solar」
マイルス・デイヴィス・オールスターズ『Walkin’』(1957年)が初出。「最後の2小節なんて、各プレイヤーがやっていることが全然違う(笑)。いろいろなバージョンを聴き、正解を考えてみましたが、結論としては『適当でいい』ということがわかリました」(須川)。
デヴィッド・ホーランド「Solar」
『Emerald Tears』(1978年)
「沈黙の次に美しい音」をコンセプトに掲げた、ドイツの名門から発表されたソロベース作品。「気に入った曲があったら、まずはベーシストのリーダー作品を探すんです。デイヴ・ホランドの『Solar』を聴いたときは『こんな演奏、ありなんだ!』と、とにかく衝撃を受けました」(須川)。

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