無自覚な人間が生み出す恐怖と向き合う
恐怖は、日常をどう切り取るかでさまざまな立ち現れ方をする。そう話すのは俳優の菅田将暉さん。名匠・黒沢清監督との初タッグとなる主演映画『Cloud クラウド』が9月27日から公開される。菅田さんの役は、転売ヤーとして日銭を稼ぐ真面目な悪人だ。
「本人は懸命に生活しているだけなのに、切り取り方によって無自覚に人を傷つけ、恐れさせてしまう。監督に薦めていただいた1960年代の映画『太陽がいっぱい』のアラン・ドロンも参考にしました」。そうして演じた無自覚な怖さとは。
そのいびつさも怖さも可笑しさも、エンタメとして昇華させる
炎上、中傷、フェイクニュース。見えない悪意がネット上で培養され、リアルな狂気として現実社会で暴走する。菅田将暉さん主演のサスペンススリラー映画『Cloud クラウド』は、我々のすぐ隣にある恐怖を描く。
菅田さん演じる吉井は、今よりいい生活がしたくてコツコツと転売業を続ける普通の真面目な若者だ。しかし転売ヤーとしての不用意な言動は周囲の憎悪を招き、やがて実体を持つ非情な狩りゲームの集団を生んでしまう。
「吉井は無自覚に他人を傷つけてしまっているんです。そして、狩りの標的にされ、殺されそうになってもなお、どんな理由で恨まれ、なぜ襲われているのかすらわからない」
得体の知れない怖さや、吉井の無自覚さを演じるにあたり、菅田さんは考えた。
「画面に映る吉井の情報を、少なくしようと意識しました。情報というのは例えば“貧乏ゆすりをしてるってことは苛立っているんだな”みたいな行動やジェスチャー。ある意味ヌボーッとした、行動原理が読み取れない振る舞いでいる方が、黒沢さんの映画では面白いだろうと僕なりに想像したんです」
一方、黒沢監督の演出で印象的だったことを尋ねたところ、吉井が自宅で恋人(古川琴⾳)に言葉をかけるシーンが挙げられた。
「普通、顔を見たり横に並んだりしますよね。でも吉井は、キッチンにいる恋人の真後ろに無言でスッと立ってから話しかける。これが、めちゃくちゃ怖いんですよ!行動や距離感のちょっとした違和感で、日常に潜む恐怖を感じさせる。面白いなあと思いました」
そして、菅田さんがゾッとしたのは、銃撃戦の場面で吉井がとったある行動。
「そういえば、とスマホを出して、転売商品の売れ行きを確認するんです。自分の身に迫る危機と転売との優先順位みたいなものが、吉井の中で壊れかけている。でも人間ってこうだよなって、恐ろしさと同時に可笑(おか)しさもこみ上げてきて。そういういびつさや怖さがエンターテインメントとして表現されているから、黒沢さんの映画はたまらないんです」