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岡田斗司夫の特別講義!映画『スター・ウォーズ』の銀河帝国に学ぶ、組織経営の手法と実践

悪役の立場にスポットを当て、組織経営を論じた『「世界征服」は可能か?』(ちくまプリマー新書)は、大学の社会起業論の授業などでテキストに採用されるほどの画期的な一冊。著者の岡田斗司夫氏が考える、実践的な「銀河征服の方法論」とは。

Photo: Shin-ichi Yokoyama / Text: Hirokuni Kanki

少ない手持ちの駒で
どうやって銀河帝国を作るのか

悪の皇帝の究極の目的、それは「民主主義革命」です。パルパティーンが皇帝になる経緯は、ローマ帝国でカエサルが皇帝になったのとまるで同じ。正しい民主主義のプロセスなんですね。

何に反対して革命を起こしたかというと、貴族たちが政治を独占していた銀河共和国システムに対してでした。彼は自分の子供に跡を継がせるのではなく、能力があるダース・ベイダーを選びましたよね。これはアメリカ大統領型の、最も有能な者が司令官になるべきだという考えです。

しかし『エピソードⅣ』の時代になると、うまくいかなくなってきた。それは弟子のベイダーが血の継承にこだわったから。ルークを引き入れ、我ら一家で銀河を支配するのだと。

言い換えれば、ヨーダが望んでいたフォースによる銀河の統治と同じです。パルパティーンはフォースの暗黒面を政治の道具には使いましたが、あくまで支配の方法論は、欲望の肯定です。映画『ウォール街』で経営者のゲッコーが唱えるのと同じく、人々の欲望による競争で活力を与える、自由経済主導の政治を考えていました。

皇帝の立場で見る帝国の問題点
皇帝パルパティーンは、かつて自分が否定したジェダイや共和国議会のやり方は踏襲できません。反対に自由競争を奨励するためには、銀河帝国の外に領土を広げるしかない。でも権力の維持を優先したせいで銀河全体の技術進歩がストップ、侵略は不可能になりました。兵隊だったクローン兵を警察として利用し、恐怖政治を敷くしか道はなかったのです。

パルパティーンの立場から見ると銀河の運営に明らかにロスがあったんですね。ジェダイ騎士団、結構やっていることは腹黒いですよ。車座になって誰をジェダイにするか?みたいな話が多くて。

ジェダイ評議会と共和国議会との間にも温度差がある。ジェダイ評議会は、軍部だからです。ジェダイは最後に議会の議決を無視して、自分たちが決めたことを優先しようとします。パルパティーンは軍部の独走を防ぐために皇帝になったという解釈もできますね。

ヨーダたちは本来、フォースを持つジェダイたちの賢人政治を望んでいましたが、結局は自分たちが武装して戦争に協力した。これは墨家思想ですね。徳がある人間は能力も武力もあるから、困っている国へ行って正義を全うすべきだという思想。こうして世の中が乱れたときにシスの暗黒卿が現れました。

曹操のように、人を能力で取り立てて自由競争させる活性化です。それを『三国志演義』のように悪役として描くのがSW。ルーカスはきっと古代中国に対する傾倒も深いのでしょう。

結局、パルパティーン陣営って彼と弟子しかいない。で、少ない手持ちの駒でどうやって銀河帝国を作るのかという実践を見ていくと、表ではクリーンに議会で振る舞って、裏では自分に協力した人間を次々と殺していくんですね。

彼は議会のルールを熟知するがゆえに、そうせざるを得ない。違反しているのを自覚しているから、どんどん裏技を使ってその証拠を消していく。言ってみれば銀河のキングメーカー。手腕は抜群なんだけど、方法は褒められたものじゃありません。

人間不信でありながらも
他者の欲望を全肯定

こうした裏役に徹していれば、協力してくれた貿易連盟の勢力も粛清せずに済んだはずです。自分は裏で手を汚して、綺麗なイメージの銀河皇帝を次々と輩出して支配したら、パルパティーンの政策はうまくいったんですよ。自分以外の者を皇帝にすればいいのに、それができない。

なぜか。彼が誰も信用できないからです。あんな手法を採っていたら、自分と同じくらい手を汚した者しか信頼できなくなっていく。アナキンを弟子にしたときも、彼に自分の妻まで手にかけさせ、手足も失われて引き返しがつかなくなった段階で、ようやく信じることができた。それほど彼の人間不信は根強いわけです。だって、デス・スターの建設が遅れているだけで、わざわざ現場に行って怒るんですよ!

すごい人間不信がありながらも他者の欲望を肯定しているのは、パルパティーンというキャラクターの魅力ですね。手法においては間違いだけど、明らかに正義感を持っている。機能不全に陥った議会を掌握することで、銀河中の物流を盛んにした。

銀河統一に向けた手法をおさらい
パルパティーンは段階を踏み、さまざまな手法を併用します。議会活動はジェダイよりも正直にやったくらい。それからジャー・ジャー・ビンクスやアナキンを裏で口説く料亭政治のような手法ですね。秀吉的な人物というか、人徳がないとできない仕事です。あとは対立勢力を潰す、非合法活動。CIAのような諜報部の手法をイメージするとわかりやすい。

それまであった人間の兵力に代え、クローン兵による新体制も導入した。権力の座を懸命に登っているパルパティーンは欲望を肯定して、自由経済を導入して、互いが競争して、力がある者が勝つのが正義だと信じていた。だから、ヨーダとの一騎打ちさえも辞さない。

それなのにいったん皇帝の座についた彼は、自分を脅かす勢力を全て排除するという徳川家康と同じことをしました。その結果、銀河全体の進歩が止まるんですね。『EPⅣ』以降の機械が全て古びているのは科学技術が進歩しなくなった証拠です。ライトセーバーの製作者も失われ、ドロイドの性能も向上しない。新兵器のデス・スターだって30年も前の設計図から起こしていますよね。

帝国の寿命は30年!
皇帝に見る経営の失敗学

つまり彼のやり方は銀河を征服するにはいいのですが、運営には向いてないんですね。戦略を立て、ジェダイの力を利用し、クローンの兵隊を山ほど作り、自分の命令を聞くコードをあらかじめ埋め込んでおいて……というクーデター計画は成功しました。でも、その後でどのように銀河を経営していくのか。そのビジョンがなかった。

経営者というのは、会社の立ち上げ時と運営時で、人格が変わらなければいけないものです。立ち上げはあくまでも冷酷非情にスピード優先、能力の優れた者をどんどん抜擢する。でも安定期に入ったら年功序列システムを導入して、新入社員を採用し、無能な社員すら有能になれるシステムを考えて、と切り替える必要がある。銀河帝国はその変革ができなくて衰えていった失敗例です。

管理者になれなかった彼らは、前線に行って恐怖をバラまくしか能がない。弟子のベイダーも部下を褒めて育てればいいのに、絞めることしか知らない。船長にまで昇り詰めても、失敗したら殺しちゃう。あれはイカンですよ。パルパティーンも引退する気がないから、仕事を任せられる後進の育成に熱心ではないのがわかります。

「正義vs.悪」に読み違えるな!
21世紀の今、世界の2大覇権がほぼ中国とアメリカに決定しているところが『スター・ウォーズ』のようです。「ジェダイ型の中国文明vs.銀河帝国型のアメリカ文明」。これはフォースを持つ優れた人格者による統治を目指す文明と、全ての人が持つ暗黒面=欲望、力を肯定して発展する文明の衝突です。暗黒面=悪ではありませんよ、ここ、試験に出ますから!

きっとバカになれなかったんでしょうね。徳川の大奥システムのような高級ハーレムを作って、産ませた子供を銀河のあちこちで地方領主にし、徳川家が一族の血で日本を統一したのと同じ仕組みにしたら、少なくとも江戸幕府のように300年はもったはず。

何が悲しいって、シスが1000年かけて準備した帝国が30年で幕切れという短命さ。足りなかったのは、きっと余裕でしょうね。皇帝がこんなに贅沢で楽しい暮らしをしているという描写はSWのどのシーンを見ても1秒もないんですから。

撮影協力/御茶の水美術専門学校