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道重さゆみに齋藤飛鳥……。心に残る、アイドル6人のスピーチコレクション

熱狂の中一人でマイクを握り、思いを言葉にするアイドルたち。そのスピーチの中にはファンの間で語り継がれる名言がある。著名人6名の心の中で輝き続ける一場面。

illustration: Nobuko Uemura / text & edit: Yoko Hasada

古川未鈴(元〈でんぱ組.inc〉)

でんぱ組.incは
平成を終わらせに来ました!

うえむらのぶこ イラスト
2025年1月4日、幕張イベントホールにて開催されたラストライブ『でんぱ組.inc THE ENDING~宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!~』1日目にて。

ふるかわ・みりん/香川県生まれ。2008年、〈秋葉原ディアステージ〉から誕生した〈でんぱ組.inc〉のオリジナルメンバーとして16年活動。

選んだ人:福嶋麻衣子

能動的な言葉選びに表れる百戦錬磨のアイドルとしての誇り

平成から令和にかけて活動してきた〈でんぱ組.inc〉。結成当時は「アイドル戦国時代」なんて言われて、ライブアイドルたちがステージで命を削っていましたが、昨今はそんな暑苦しさもなく、SNSで夢が叶えられる時代へ。

新旧の世代交代が目まぐるしく「〈でんぱ組.inc〉の終わりが平成アイドルの終わりかも」と各所から言われていた中での言葉でした。ライブもラストスパートという思いが溢れそうな場面でのMCで、わかりやすく一言に思いが詰まっていた。

「平成が終わります」ではなく「終わらせに来た」という能動的で挑戦的な言葉遣いが、アイドル戦国時代を生き抜いた彼女らしいと思いました。会場は「平成とっくに終わってるけど?」という反応でしたが(笑)、後からじわじわくると思います。

齋藤飛鳥(〈乃木坂46〉OG)

恩を返すだけではなく
恩をどんどん送っていく。
そうやって連鎖していくって
素敵なことだなと思います。

うえむらのぶこ イラスト
2023年5月18日、東京ドームで行われた『乃木坂46 齋藤飛鳥 卒業コンサート』2日目のスピーチ。「恩送りという言葉を知って気持ちが整理できた」と約12年間の思いを語った。

さいとう・あすか/1998年東京都生まれ。2011年1期生として加入、23年卒業。現在俳優、モデルとして活躍。

選んだ人:香月孝史

飄々とした佇まいから浮かぶ人々への大きな愛着心

齋藤さんが紡ぐ言葉にはしばしば、ご本人が蓄積してきた見聞や思索の豊かさを感じるのですが、同時に、平素は常にどこか飄々(ひょうひょう)とした佇まいだからこそ、大きな節目で発される語りでは内側にある真摯さが一層強く滲(にじ)むように思います。

このスピーチは、一つの文化を築きながら共に歴史を重ねてきた人々への愛着、そして組織としての継承までが、ごく自然に織り込まれた印象的なものでした。他方、現在の日本のアイドルは、晴れがましい場でのスピーチ以上に、SNSでエイジズム的な振る舞いを諫(いさ)めるなど、日常的な発信の内にこそおのおのの主体的な実践が窺えます。広く報じられることの少ないそれらの言動の端々に、社会の空気を静かに変えていくようなエンパワーの契機が見出せるのです。

百田夏菜子(〈ももいろクローバーZ〉)

もう悪い大人は、私たちの前に
壁を作ってくれないんだなあ。
今度は大人の事情とか関係なく
自分たちでやっていきたい。

うえむらのぶこ イラスト
2014年3月16日、東京・国立競技場での『ももクロ春の一大事2014 国立競技場大会~NEVER ENDING ADVENTURE 夢の向こうへ~』にて。グループの夢でもあった会場での公演最終日に語られた。

ももた・かなこ/1994年静岡県生まれ。2008年に結成したグループのリーダー。現在は俳優としても活躍。

選んだ人:中田クルミ

自らの意志で走り続けることを過去を思いながら約束する

どんどん会場が大きくなる絶頂期の〈ももいろクローバーZ〉にどっぷりハマり、最後に行ったライブが2013年5月のファンクラブ限定ライブ。「ももクロが遠いところに行ってしまった」と寂しくなり、翌年3月に国立競技場で行われたこのライブを、後日DVDで観て号泣したことを覚えています。時代を駆け抜けた〈ももクロ〉の、譬(たと)えるならば箱根駅伝を完走した瞬間のような公演でした。

多くの人の視線を浴びながら全速力で駆け抜けてきた、彼女たちの数年間。その景色と思いをすべて表しているようなスピーチで、大人が決めた夢を叶えたらゴールなのではなく、これからも自分たちの意志で走り続ける。そんなアイドルとしての使命感を思わせる言葉に胸を打たれました。

B.I(元〈iKON〉)

「幸せ」という単語は
ちょっと意味が広いので
どうか一日一日生きることの
楽しさを願っています。

うえむらのぶこ イラスト
2018年12月1日、「MelOn Music Awards」の授賞式での発言。

びーあい/1996年韓国生まれ。2015年に〈iKON〉の一員としてYGエンターテインメントよりデビュー、19年脱退。現在はラッパーとしてソロ活動中。24年3月にはJAPAN 1st EP『ただいま』(日本コロムビア)を発表した。

選んだ人:DJ泡沫

世界中の人への切実な思いをシンプルで正直な言葉で紡ぐ

この頃、韓国では現役の人気アイドルが自ら命を絶つという出来事がありました。バッシングやアンチ行為が激しい韓国の芸能界、自死を選ぶ若者が少なくない韓国社会について、思うことがある人が特に多かった時期だと思います。そんな時、世間から叩かれやすく、率直さをくじかれがちな韓国のアイドルという立場からなされたスピーチは、同時期の「Golden Disc Awards」でのIUのスピーチと並んで記憶に残りました。

B.Iは言葉選びのうまさが、IUは内容の率直さが魅力的で、アイドルや芸能界、社会全体に語りかけるようでした。アイドルという、発言に独特の制約がある(と思われている)立場からでも、その人なりに考えたことが素直に伝わってくる瞬間に、心が揺さぶられるのだと思います。

道重さゆみ(〈モーニング娘。〉OG)

正直嫌いだったよ、あなたのこと。
でも、だからわかんないの。
なんで、こんなにさみしいのかなって。

うえむらのぶこ イラスト
2009年12月6日に東京厚生年金会館で行われた『モーニング娘。コンサートツアー2009秋 ~ ナインスマイル ~』最終日にて。

みちしげ・さゆみ/1989年山口県生まれ。2003年6期メンバーとしてグループに加入し、14年に卒業。現在は歌手、モデルとして活躍。25年夏開催予定のツアーで芸能活動終了へ。

選んだ人:大森望

あえて禁句を用いることで大きく際立つ、愛ある本音

卒業公演のセレモニーでグループを卒業するメンバーに贈る言葉は、きれい事の羅列になりがち。ですが、自身が教育係として面倒を見てきた後輩の久住小春の卒業に際し、道重さんは「正直、あなたのことが嫌いだった」というアイドルとしては強烈な“禁句”を最初にぶつけました。それによって「本音で話している」感がストレートに伝わり、だからこそ、「なんでこんなにさみしいのかな」という言葉が観ているファンの心に訴える。

“毒舌ナルシシストキャラ”として世間から注目を浴び、バッシングも受けながら常にギリギリのラインを攻めて、毒舌を笑いに変えてきた道重さゆみだからこそ成立する稀有なスピーチ。実際、客席は、「そこまで言うんかい!」という笑いと歓声に包まれていました。

LEO(〈BE:FIRST〉)

不器用でダサいかもしれないけど
あなたがいてくれるから
これからもマイクを持って
命懸けで歌っていく。

うえむらのぶこ イラスト
2025年1月9日に東京ドームで開催された『BE:FIRST DOME TOUR 2024-2025 “2:BE”』でのスピーチ。

れお/1998年東京都生まれ。SKY-HI率いるBMSGのアーティスト、7人組ダンス&ボーカルグループ〈BE:FIRST〉に所属。2024年12月にドームツアーを開催。2025年にはワールドツアーも。

選んだ人:燃え殻

真っすぐな言葉で一人一人との未来を誓う

読書家な彼とは、ラジオ番組で共演して以来親交がありライブも観させてもらっていますが、この公演は会場の大きさもあり、彼らの存在を多少遠くに感じてしまいそうになった瞬間がありました。ですが、マイクを握ったLEOが放ったこの言葉は、「変わらず、あなた一人のためにこれからも僕たちは歌う」という、強い誓いのように感じられ、東京ドームに集まったBESTY(ファンの総称)一人一人が心から安堵していたように思いました。

もともと言葉に関心があり、先頭に立って力強いメッセージを口にするメンバーですが、ファンを信頼して発したストレートな言葉と関係性のすべてが本当に神々しかった。アーティストとファンの関係性をつなぐ瞬間を目の当たりにして、感銘を受けました。