Listen

Listen

聴く

永野が読み解くサザンオールスターズの新しい音楽。『THANK YOU SO MUCH』視聴会レポート

さまざまな分野で活躍する人たちの耳に、ニューオリジナル・アルバム『THANK YOU SO MUCH』はどう届いたのか?BRUTUSでは今回、聖地・ビクタースタジオで開かれた試聴会に集結したサザンを愛する方々へインタビューを実施。特に気に入った楽曲とそのフレーズに触れながら、サザンに魅了されるその理由について、たっぷりと語ってもらった。永野さんの心を、そして人生を。サザンオールスターズの曲はいかにして揺さぶってきたのか。生の声をお届けする。

photo: Ayane Matsui / text: Mie Sugiura

連載一覧へ

ずっと“音楽の僕”であるということへの表明のような歌詞、普通書けないです

リリース前に新作を聴かせてもらえるなんて、めちゃくちゃ贅沢ですね。ありがとうございます(笑)。ジャケットも最高じゃないですか?これぞニッポンのロックンロールバンドという感じのインパクトで。アルバムを一聴しての感想は、「これぞ僕の好きなサザン!」でした。

前作『葡萄』は少しメッセージ性の強い“年齢を重ねたサザンの作品”という感じで聴いていましたけど、今作はなんというか、時空を超えているような、間違いなく現代のサザンなんだけど、どの時代のサザンとも言い切れない感じが好きですね。

アルバムの雰囲気で言えば『さくら』よりも先に進んでいるけれど、『キラーストリート』より前な感じもあって、『葡萄』よりも進んでいながら『葡萄』の次の作品という感じはなくて……伝わりますかね(笑)。

70年代、デビュー前に作ったという「悲しみはブギの彼方に」が入っているのもその感覚を後押ししているのかもしれない。普通なら「悲しみはブギの彼方に“2025”」とかにして「髪の手入れは リンスにシャンプー」という歌詞も「コンディショナー」に変えたくなりそうなもんじゃないですか。それを「リンス」のまま歌うのも素敵。

お笑い芸人・永野

やっぱり今作は時空を超えた音楽、時空を超えたサザンという感じ。もう、桑田さんに言っといてくださいよ。「永野が感動してました」って(笑)。

「夢の宇宙旅行」の歌詞には「Iggy Pop(イギー・ポップ)」まで出てくるし、「目の前に大谷翔平のサイン」なんてこれもう、“今”を衒(てら)いなく言葉にするヒップホップのリリック感覚ですよね。後世のことまで考えてないんですよ。

『稲村ジェーン』の「東京サリーちゃん」にも当時、同じようなことを感じたんです。東京ドームができた頃だったから「Tokyo-Dome」ってワードをあえて入れてるんじゃ?とか。固有名詞の入れ方のセンスが、一見ふざけてるみたいなのにすげえなって。長く愛される普遍的な名曲にしようとか、そんないやらしい気持ちがまったくないんですよね。その感覚がラッパーに近いなと。

ケンドリック・ラマーの「Not Like Us」じゃないですけど、とにかく“今”をファイルするマインド。後世のことまで考えて作るなんて、そんな貧乏くさい考えを持たないのが桑田佳祐なんですよ。

最後の「Relay〜杜の詩」もいいですね。特に「馬鹿でごめんなさい」っていう歌詞。真意はわからないですけど、桑田さんがそれを言う感じ、なんだか泣けちゃうんですよ。常に音楽の下にいる、ずっと“音楽の僕(しもべ)”であるということの表明のような気もして、その驕りのなさがすごいなと思います。これ普通書けないですよ。

あと僕的には、桑田さんは変に体を鍛えたりせずに、すらっとしたままなのもいい。無駄に盛って見せたり、自分を大きく見せたりしようとしない、等身大なままで音楽を奏でている感じがかっこいいなあと、いつも思います。

Hit Me Lyric

馬鹿でごめんなさい

「Relay〜杜の詩」より

My Favorite サザン

連載一覧へ