桑田さんの歌詞はパンチラインのオンパレード。歌詞にも静と動があるんです
桑田さんって昔の歌謡曲のタイトルやフレーズをちょこちょこ歌詞に入れるじゃないですか。新作の曲だと「神様からの贈り物」がまさにそう。歌詞に出てくる「胸の振(り)子」や「また逢う日まで」とかは昭和の名曲のタイトルだし「クレイジーだったよ」というフレーズもクレイジーキャッツが脳裏に浮かぶ。
デビュー前の未発表曲だった「悲しみはブギの彼方に」にも「ちょいとお待ちよ 車屋さん 蛙が啼くんで 雨づらよ」ってフレーズがありますけど、美空ひばりさんへのオマージュを感じます。その曲とメドレーになっている「ミツコとカンジ」には、平岡精二さんがペギー葉山さんに作った昭和の名曲「爪」が、曲の背後に流れてるようにも感じました。
「爪」の歌詞は女性目線で書かれているんですが、桑田さんが作ったカンジという男性キャラクターは、「爪」の女性が惚れていた男の人を連想しました。桑田さんは、平岡さんの曲をよく歌っていたペギー葉山さんや松尾和子さんの歌もきっと好きだったんじゃないかと。
だから、「神様からの贈り物」の「ニッポンの夜明けは暗い でも先人は凄い」という歌詞は好き。私も本当にそうだなと思うので。自分の中に先人たちが遺した大切なものが蓄積されていて、それが今の自分を通じて無意識にアウトプットされている。そこにオリジナリティも感じるんです。でも「ミツコとカンジ」の「闘いの大海原で あの子の顔が チラついたら」の後に「チョップ食らったよ」っていきなり出てくるのも桑田さんっぽくていい(笑)。

これはすべてのサザンや桑田さんの楽曲について言えるんですけど、パンチラインのオンパレードというか、散文的で脈絡のない歌詞に思えるけど、音と一緒に聴くと言葉の配置やバランスの調整がデザイン的で面白い。
そして、曲調だけでなく歌詞にも静と動がある。意味を追求してない勢いのある曲と、すごく情緒的なバラード。若い頃は「いとしのエリー」や「涙のキッス」みたいなバラードの方が歌詞がすんなり入ってきてました。
だけど、「シュラバ★ラ★バンバ SHULABA−LA−BAMBA」みたいな言葉のセンスは、感性と知性のまぐわい方が絶妙で、自分で曲を書くようになってからそのすごみを感じています。「Bye Bye My Love(U are the one)」の「波音は情事のゴスペル」とか、ああいう歌詞は、机に向かって考えて、だけでは書けないと思う。
桑田さんの中に静と動のスイッチの切り替えがあるのかなあ。外的なものと内的なものというか、スイッチが入って一気に持っていくタイプと、普段の物静かな桑田佳祐とのバランスがすごいと思います。さっきまでちょけてた人が急にふっと真面目な顔になって「本当に好きだよ」って言ってくる感じ(笑)。こっちは「どうしたの?今日は何かあったの?」って抱きしめたい気持ちになるんです。
Hit Me Lyric
ニッポンの夜明けは暗い でも先人は凄い
「神様からの贈り物」より