英語圏に『空耳アワー』があったら、「JAPANEGGAE(ジャパネゲエ)」は採用されると思う
子供の頃からサザンを聴いてきましたが、『THANK YOU SO MUCH』が発表されるということで、改めて過去の曲を聴いてみたんです。サブスクで聴くことのできる名曲の数々は、昨年新たにデジタルリスニング用としてリマスター処理が施されていて、驚くほど音質がクリア。
流行のリバイバルは周期的に来るというけれど、80〜90年代の曲も最近作ったと言われても違和感がないほど、音質的にも内容的にも現代にハマっていてかっこよかった。
特に自分はイギリス周辺の90年代の音楽に影響を受けているんですが、サザンもロックンロールやR&B、レゲエからダンスミュージックまで、その時に気になる音楽を吸収し、唯一無二の楽曲を作ってきたということが今の私には改めて理解できました。
例えば1984年に発表された「JAPANEGGAE(ジャパネゲエ)」はレゲエというよりデジタルシーケンサーを使っている和製フュージョンといった感じでお気に入りです。
楽曲が輝き続ける理由には、もちろん桑田さんの、言葉の響きを大事にする感覚もあると思います。桑田さんの楽曲には、英語の音に似た日本語詞をつけるものが多数あると思いますが「JAPANEGGAE(ジャパネゲエ)」は、日本語の中でも特に、古語が当てられています。
英語っぽいアクセントに古語ならではの妖艶さがベストマッチ。英語圏で『空耳アワー』があったら「“愛苦ねば 世も知れず”という冒頭のラインが“I Could Never, You More”に聞こえる」とか、応募が来るんじゃないかな(笑)。

言葉と音楽の試行錯誤は、新作『THANK YOU SO MUCH』にもたくさんありました。「桜、ひらり」の「柳暗花明(りゅうあんかめい)」は、英語の発音に日本語をあてたのかと思いきや、実は言葉自体に“春の美しい景色”という意味があって。憶測を超えた懐の深さを感じました。
どうやって辞書引くんだろう。それから、ショッキングな「ごめんね母さん」を聴き、最近観たドラマとか事件とかいろいろなことを想起しちゃいました。ショックつながりで「マリワナ伯爵」を思い出し、そのタイトルから寺山修司の『トマトケチャップ皇帝』を連想して。
桑田さんは「天井棧敷の怪人」も書いているし、寺山ファンなのかなと嬉しくなりましたね。これだけキャリアを重ねても「ごめんね母さん」みたいな攻めたワードセンスの曲を書いてしまうところも桑田さんの魅力だと思います。
メッセージ性の強いアルバムですが、原さんの歌う爽やかな「風のタイムマシンにのって」が、全体の折り返しになっていて。鮮やかな湘南の情景描写になっています。
実は私自身、大学が湘南方面で、毎日のように片瀬江ノ島行きの電車で通学していました。地名だけは存じ上げておりますのでシンパシーを込めて歌詞に耳を傾けました。同時に、湘南の海へは2回しか行ったことがないことを思い出しました(笑)。
Hit Me Lyric
未来のことなんて 分からなくていいんじゃない? 江ノ島も手招きしているから
「風のタイムマシンにのって」より