後世に語り継がれる作品を残した、音楽界の岡本太郎さん的な存在
世の中にはいろいろなタイプのシンガーソングライターがいて、例えば、槇原敬之さんの曲は歌詞カードがなくても何を歌っているのかがよくわかる。一方、桑田さんの歌われる詞は、一聴しただけでは言葉の意味が摑(つか)めないことも多くて。
特に思い出深いのが中学3年生の頃。テレビ番組『夢で逢えたら』(フジテレビ系)の主題歌「女神達への情歌(報道されないY型(ケイ)の彼方へ)」の言葉の乗せ方に衝撃を受けたこと。英語?日本語?みたいな。その頃にはもう自分でも楽曲制作をしていたんですが、海外の音楽のオタクだったので思いのままにメロディを作ると、16ビートのリズムが日本語になかなか合わせられなくて、ずっと悩んでいたんです。
桑田さんのスタイルは、楽曲のグルーヴを重視して、日本語と英語、外来語をミックスしたもの。今では日本を代表する王道、ど真ん中ではありますが、デビュー当時は相当革命的で「邪道」だったはず。
サザン以前の日本の音楽界にはなかった、異彩を放つ発明のようなオリジナルスタイルじゃないでしょうか。80年代以降に日本で育った僕らにとってはお味噌汁のように当たり前に存在する、そんな手法だと思います。今でも困ったら桑田さんの作品を聴いてヒントを探したりするんです。僕だけでなく多くの後輩たちの曲作りに大きな影響を与えていると思います。

桑田さんがすごいのはゴシップやスキャンダル、エロティックな感情、意図的に下世話な言葉を織り交ぜる塩梅。一回聴いて忘れられないエグる部分が、どの曲にも存在していること。
今作だと「ごめんね母さん」で唐突に出てくる「また駐輪場で吐いたよ」というフレーズが僕は大好きですね。「駐車場」ではなく「駐輪場」。今まで歌詞になったことのない言葉な気がします(笑)。曲の最後ではボイスチェンジャーのようなものを使ってブツブツ世相を斬るぼやき(笑)。普通ならカットしてもおかしくない、ある種過剰で余分でもある部分なんですが、これはマイケル・ジャクソンやプリンスのように、一番売れているのに、一番ストレンジ、過激だという部分と共通するものを感じます。
一般には理解不能なものを作り上げているはずなのに、それがあまりにもすさまじいから愛されて、後世に受け継がれていくという。その点で、僕は個人的に、桑田さんは岡本太郎さんに近い「爆発する天才」だと思っています。
「悲しみはブギの彼方に」を、デビュー前に書かれたという前知識なく聴いて、後で50年近く前の曲ですよ、と教えてもらって驚いたんですが。ザ・バンド、ある種スティーリー・ダンのようなバンドのグルーヴに浸りました。それに続く「ミツコとカンジ」のグッとくる歌詞も良かった。永遠の言葉遊び、ユーモアを追求しつつ、切なく人の心を揺さぶる歌詞も同時に生み出していく。それが桑田さん、そしてサザンの作品が愛される理由なんでしょうね。
Hit Me Lyric
ふと立ち止まってみれば 何を求めて 命懸けで 生きて来たんだろう?
「ミツコとカンジ」より