歌詞だけで、あらゆる人々と音楽を共有できる。そんなバンドはほかにいません
サザンにドハマリしたのは、中2で『SOUTHERN ALL STARS』を買った翌年。サザンとユーミンが好きだった家庭教師が、マイベストを録音したカセットテープを作ってくれてからでした。
その後、『稲村ジェーン』『世に万葉の花が咲くなり』と、90年代初頭はこれでもかというほどその3枚のアルバムを聴きました。20代こそ、UKやUSのインディーズにのめり込んだけれど、一人暮らしを始めたばかりの部屋で中学からの同級生の友達と最近買ったレコードを持ち寄って、熱い話もしながら、朝までお酒を飲んで聴かせ合うというのをよくやっていて。
ある日、それをひとしきりやった夜中の3時頃、何となくBGM的に『10ナンバーズ・からっと』をかけたんです。3曲目で「ラチエン通りのシスター」が流れてきた時、妙に沁(し)みてしまって、2人で「結局、サザンが一番いいな!」という結論に達した。
それから、サザンは血肉であり、僕たちはここから来て、そしてこれからもずっとサザンと並走していくんだと思った。今でもその日のことを思い出します。その友達は、僕の最新作『サテンdeサザン』で絵の背景を手伝ってくれている。今もサザンを通してつながっているんです。

「ラチエン通り〜」は間違いなくマイベスト・サザンですが、最新アルバムもすごく良かったですね。元日に配信された「桜、ひらり」は、これまでの名曲群と並ぶ大傑作で感動しました。歌詞にもギュンギュンしてしまって「誰か未来へ言葉 うまく伝えて欲しい」のところで必ず泣きそうになる。
それから僕はラジオを聴いてサザンのルーツを知るうちに洋楽にハマっていったので、中でも桑田さんの“洋楽大好きモード”を感じる「ごめんね母さん」「史上最恐のモンスター」「悲しみはブギの彼方に」が特に好きでした。
「歌えニッポンの空」もアルバムで改めて聴くと配信シングルで聴いた時よりこんなオシャレな曲だったんだって印象が変わって結局、聴いているうちに全部いいな、みたいになってくるんですが。
「史上最恐の〜」では、洋楽っぽい曲に民話のような歌詞を乗せていて、その中に「ウクライナ」「ホーキングさん」という具体的な言葉が入ってくる感じも嬉しくて。僕が漫画に固有名詞を入れるのは、漫画家の岡崎京子先生と藤子不二雄Ⓐ先生の『まんが道』からだと思っていましたが、「夢の宇宙旅行」を聴いて、サザンからの影響も断然あったなと気づきました。
「御守りは IggyPop(イギー・ポップ)のサイン」なんて、カッコいいですよね!桑田さんの歌詞のストイックで、あまり重たい方向に行かないところもずっと好きで、それは植木等に通じる飄々(ひょうひょう)とした、“粋な日本人”像で憧れるんです。
漫画って音が聞こえない。でもサザンなら、歌詞を描くだけで、多くの人の頭の中に同じ音楽を鳴らすことができる。それは、あり得ないくらいすごいことだと思っています。
Hit Me Lyric
御守りは Iggy Pop(イギー・ポップ) のサイン
「夢の宇宙旅行」より