「ラブソングって、嬉しくて、悲しくて、切なくて、辛い」
自分にとってのターニングポイントというと、まず初めてギターに触れたとき。母親が好きだったビジュアル系バンドの映像を観て、その人たちがヒーローに見えたんです。幼い僕にとっては仮面ライダーと同じように憧れの存在になりました。それでまだ4歳だったけど「ギターやりたい」と。そしたら祖母が「近くのギター教室に通ってみればいい」って言ってくれて。それが最初のきっかけでしたね。
今思えば、母や祖母の理解や愛があったからこそ、自分は音楽を始めることができた。そんな家族の愛の尊さに気づいていない当時の自分には、スティーヴィー・ワンダーの「Isn't She Lovely?」という曲を贈りたいです。愛娘の誕生を手放しで祝福するすごく大きな愛の歌。幼い僕でもきっと何か感じるものがあったはず。
次の転機は、13歳の頃。ギター教室で組んだバンドで『未確認フェスティバル』に臨んで、そのオーディションに通ったことです。当時は、とにかくエッジーな焦燥感のあるオルタナティブロックばかり聴いていたんですけど、その頃の自分には、もっと早くいろんな音楽に触れてほしいと言いたいですね(笑)。
ということで、13歳の自分に贈るとしたら、ビル・エヴァンスの「Emily」。これまで聴いてきた中で十本の指に入るくらい大好きな楽曲。奏でるピアノの旋律に心が開かれていくようで、本当に一音一音がこぼれてくるように響くから、音に愛を感じます。13歳の崎山少年には早く、この美しい音に出会ってほしいと思います。

3つ目のターニングポイントは、AbemaTV『バラエティ開拓バラエティ 日村がゆく』で「五月雨」を披露した15歳のとき。これはとても大きな転機ですね。その頃の自分には矢野顕子さんの「どんなときも どんなときも どんなときも」を聴いてほしいと思います。
どんなときも どんなときも どんなときも 君は すてきだよ
矢野顕子「どんなときも どんなときも どんなときも」
自分がこの曲に実際に触れたのは18歳の頃ですが、とにかく超ラブソングなんですよ。歌い出しの「少しだけ」っていう歌声がめちゃめちゃキュートで。ハッとしてキューンとくる。すごい音楽だなと思いました。
当時の自分はヒップホップにはまっていたので、まだ昔の日本の音楽まで遡れていないんですよね。でも未聴感のある音楽を求め始めていた時期でもあるので、15歳の僕でもこの曲にはきっとはまったと思います。「どんなときも どんなときも どんなときも 君は すてきだよ」っていうシンプルだけどとても心に残る歌詞、やっぱりすごいなあって思います。

これまで聴いてきた楽曲に触れたからこそ作れた一曲
その次の転機というと、やはり18歳で浜松から上京してきたときかな。メジャーデビューを控えて初めての一人暮らし。そこで失恋も経験します(笑)。そんな自分には前野健太さんの「東京の空」を贈りたい。すごく詩的な歌詞なんですよね。
実際には20歳くらいのときに聴いて。かなり武骨でフォーキーなんですけど、自分が思い浮かべる東京の景色がこの歌に重なりました。当時住んでいた場所は古い街並みも残っていて、その景色と記憶が蘇ります。
そして5つ目の転機、これはほとんど「現在」ですが、2023年にTVアニメ『呪術廻戦』「懐玉・玉折」のエンディングテーマとして「燈」を書いたこと。そしてその曲がレコード大賞の特別賞を受賞したこと。この曲には自分でもすごく手応えを感じていて、それこそここで挙げた楽曲たちに触れたからこそ書けたメロディだったとも思います。
それが評価されたことはシンプルに嬉しいですが、一方でそうした評価軸とは違う、もっとプリミティブな「音楽」の在り方を求めている自分もいて。そんな中で出会ったのが高木正勝さんの「しらいき」という曲。原初的な歌の在り方がここにあって、不思議な、大きな“愛”を感じる曲です。子守歌のようでもあり、これこそ音楽だと思えて、衝撃でした。
今回挙げた5曲には「ラブソング」と言い切れないものもあるけれど、広く“愛”を感じます。ラブソングって、嬉しくて、悲しくて、切なくて、辛くて、一言では説明できないもの。だけど、音や歌は空気の振動で、その震えが心に伝わるということがラブソングなんだと思います。
