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サントラ・ブラザースの今夜もハイフィデリティ! Vol.5 デヴィッド・リンチ監督の世界を、さらにモヤらせた音楽家、アンジェロ・バダラメンティ

都内のクラブなどを中心にDJとして活動している鶴谷聡平(長男)、山崎真央(次男)、渡辺克己(三男)による通称“サントラ・ブラザース”がBRUTUS.jpで連載。

text: Katsumi Watanabe

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『ツイン・ピークス』や『ブルーベルベット』のほかにもある、アンジェロ・バダラメンティのクセになる映画音楽

———ここのところ、エンターテインメント界でも訃報が続いていますね。誰もが知っている音楽家の方々も永眠されるなど、ショックが多いと思います。

山崎

そうですね、驚くことが多いですね。

渡辺

お悔やみを申し上げるとともに、大御所ほど多くの作品を残していますから、永遠に聴き続けたいと思っています。

山崎

映画音楽を手掛けてきた作曲家は、人前に出ることが少ないので、実感がないこともありますが。しかし、さすがに1980年代からデヴィッド・リンチ監督とタッグを組んでいた作曲家、アンジェロ・バダラメンティが亡くなった時は、本当にショックだったな。もう新作が聴けないと思うと、本当に悲しくなった。

鶴谷

バダラメンティは、1937年NY・ブルックリン生まれ。60年代から音楽出版社に所属してソングライター、ピアニストとして活動を開始。ニーナ・シモンら、多くのアーティストに楽曲を提供。70年代から映画のスコアを手掛けるようになり、『ブルーベルベット』(1986年)でブレイク以降、数多くの劇伴を担当。49歳で売れたんだから、結構遅咲きになるのかな。ちなみに当初『ブルーベルベット』では、ヒロイン役のイザベラ・ロッセリーニの歌唱指導のために雇われたらしいんだけどね。

渡辺

僕は高校生の頃にドラマ『ツイン・ピークス』(日本でのOAは1992年)を、その後に『イレイザーヘッド』(1977年)や『ブルーベルベット』を追いかけて、思春期にめちゃくちゃ衝撃を受けましたよ。

山崎

ファンとして、同じ時代を生きた感覚があったから。いつか会えると思っていたので、本当に残念です。

渡辺

真央さんは、『ツイン・ピークス』のパイロット版を含むファースト、セカンド・シーズンの全30話を何周も見たんでしょ?

山崎

オンエア直後に多分10回以上、その後に何度もレンタルして観ているから、もう何回観ているか、自分でもわからないな。

鶴谷

え!そんなに何度も観たの!?

山崎

最近は観直していないけど、今でも話のあらすじはすらすら話せる。当時、リンチと脚本家のマーク・フロストが書いた『WELCOME TO TWIN PEAKS-ツイン・ピークスの歩き方』(扶桑社)も買ってさ。結局、現地へは行かなかったけどね(笑)。

渡辺

滝本誠さんと川勝正幸さんが雑誌「テレビブロス」の企画で、仲良く現地へ行かれていて。

山崎

それは羨ましいなぁ。『ツイン・ピークス』のサントラは、ここ数年でリイシューされたけど、その前に急激に高騰したよね。それまでそんなに高いレコードじゃなかったんだけど。

フライング・ロータスなど、新生代のトラックメイカーも魅了するアンビエント感の高いバダラメンティの楽曲

渡辺

2018年にサマーソニックの夜部門で開催された「Brainfeeder Night In SonicMania」で、フライング・ロータスのライブ中、『ツイン・ピークス』のオープニングテーマ「Twin Peaks Theme」と、映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)の「謡I - Making Of Cyborg」をマッシュアップさせたトラックを組み込んでいました。この2曲が、超満員の幕張メッセでプレイされたのは感慨深かったな。現在のアンビエント、90年代のIDM(インテリジェンス・ダンス・ミュージック)再評価の下、若い世代にも人気がありますね。

山崎

2019年に突如『Twin Peaks: Season Two Music And More』(2007年にCDのみ発売)がアナログリリースされたのが納得いくね。

渡辺

2017年、1991年の前シーズン最終回、ローラ・パーマーの「25年後に会いましょう」というセリフ通り、本当に『ツイン・ピークス The Return』が制作されたけど。個人的にはめちゃくちゃ好きでしたが、影響力という意味では、ファーストシーズンやバダラメンティ楽曲の再評価の方が強いと思う。

美しくも儚いメロディと、生活音の中に宿る狂気的なノイズ。相反するサウンドが同居した『ブルーベルベット』の魅力

———ちなみに、リンチ作品のサントラは公開当時に買っていたんですか?

山崎

『ツイン・ピークス』と『ブルーベルベット』は買ったかな。

鶴谷

『ブルーベルベット』は公開当時に観たんだけど、おもしろ過ぎて、本当に衝撃だった。

1986年に全米、翌87年に日本公開作。リンチとバダラメンティの初タッグ作。公開時のポスターやサントラ盤のジャケット通り、カイル・マクラクランとイザベル・ロッセリーニによる、非常に美しいビジュアルが目に付く。それと、映画史に残る最悪(最高!)のキャラクター、フランク(デニス・ホッパー)とのギャップ。リンチ最高傑作の誉高い傑作。

———『ブルーベルベット』は『ツイン・ピークス』と同様、アメリカ郊外を舞台にした作品ですね。オールディーズが似合うのはわかりますが、バダラメンティの楽曲はどのような役割を果たしているんですか?

渡辺

バダラメンティの楽曲は音響効果的な役割も担うというか。例えば『ブルーベルベット』のオープニング。ボビー・ヴィントン「Blue Velvet」(1963年)をバックに、アメリカ郊外を象徴するような庭の芝生と薔薇に、主人が水を撒くという、すごくキレイなシーンから始まる。しかし、曲がフェードアウトすると同時に、芝の間をズームアップしていくと、ちょっと低音の効いた効果音と虫同士が喰い合っている音がミックスされるという……。ダークアンビエント的なところがあって。

山崎

『ブルーベルベット』なら、ジュリー・クルーズが歌う「Mysteries Of Love」など、バダラメンティのメロディは、耳にスッと入ってくるというか。まぁ、何度も映画を観ているし、スコアも聴いているせいかもしれないけど。

渡辺

現代音楽やジャズなど、アプローチはさまざまだけど、リンチ作品では特に主旋律と並行して、薄くシンセ音が敷いてある感じがある。ちょっとダークな曲調でもフワッとしていて、耳心地がいいんですよね。

2022年の〈レコード・ストア・デイ〉でリリースされた『ブルーベルベット』の2枚組デラックスエディション盤。オリジナル盤未収録だったボビー・ヴィントン「Blue Velvet」(1963年)が収録されマニアは熱狂!しかし、あまりに高額だったことから不評を買ったため、現在でも品は余っている。今回も鼎談の試聴には、オーディオテクニカ社製のレコードプレイヤー〈AT-SB2022〉、通称・サウンドバーガーが大活躍!

———バダラメンティは、1980~90年代に自身名義でたくさんスコアを手掛けていますが、3人が大好きなレコードではなく、CDのみのリリースが多いですね。

鶴谷

そうなんですよ(笑)。ぜひ、アナログ盤でリイシューしてほしい作品が多い。中でも、バダラメンティがスコアを手掛けているジェーン・カンピオン監督作品の『ホーリー・スモーク』(1999年)は、ぜひレコードで欲しいな。映画は、ケイト・ウィンスレット演じる主人公がインドの宗教にハマり、ハーヴェイ・カイテル演じるカルト脱会請負人が洗脳を解こうと奮闘する物語。

山崎

ちょっとヒリヒリくる内容だね。サブスクでも観られる?

鶴谷

アマプラで観られる。タブラとシンセっぽいオーケストラを配した「Maya, Mayi, Ma」は、インド音楽を踏まえた女性ボーカルの曲。バダラメンティっぽさはないんだけど、めちゃくちゃいい曲なんだよね。

日本では2003年に公開されたジェーン・カンピオン監督作。製作は1999年、主演のケイト・ウィンスレットは『タイタニック』でスターになった直後。カルトに洗脳された女性役、そして共演がハーヴェイ・カイテルなど。鑑みればみるほど、ウィンスレットの気合が感じられる作品。サントラ盤は、主にバダラメンティのスコアながら、1曲目にニール・ダイアモンド「Holly Holy」が収録されている。気が利いてるね。

渡辺

そう聞くと、ホルガー・シューカイの「Persian Love」を想像してしまうけど。

鶴谷

そうそう、近いかな。あと、ボーカルにユーリズミックスのアニー・レノックスを招いた「Primitive」も素晴らしい。

山崎

最近、90年代にCDオンリーで発売された作品をチェックする機会が本当に増えたよね。今回はリンチの作品を中心に話したけど、これからもっと90年代のバダラメンティを掘り起こしたいな。

渡辺

レオ様(レオナルド・ディカプリオ)主演の『ザ・ビーチ』とかありますからね(笑)。今後の楽しみにしたいと思います。

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