アニメ『青のオーケストラ』楽曲の制作舞台裏
「お話をいただいた時は、原作マンガのファンでもあったので、本当に嬉しかったです。音楽人としての経験が浅く、実績もない。芸名が売れているため、“色物”や“話題作りだ”と揶揄される可能性がある中、それでもオファーしてくださったことに感謝しています。
『青のオーケストラ』の第1話がオンエアされ、僕の名前のクレジットが出た時、Twitterに“あの粗品?”“びっくりした”という声がありました。その時、まだ音楽やっているイメージが薄いことを実感しました。“まだまだやな”と思いましたね」
物語の世界観とリンクする言葉を抜き出し、巧みに韻を踏んだ歌詞が印象に残る。そんなエンディングテーマは視聴者からの支持も得ている。
「物語の世界を反映するため、アニメ制作側や局からリクエストやオーダーを受け、制作を進めていきました。“青春”や“夕方”“帰り道”など、エモいキーワードが出たので踏襲。原作を読み直し、登場人物が考えていそうなことを、自分もオーケストラ部員であることを妄想して。
先にメロディができたので、そこに歌詞を書いていきました。同時に“キャラクターへ共感もしてほしい”というオーダーもあり、青春真っただ中で、音楽に限らず、部活に打ち込んでいる人たちが共感できるような言葉を選びました」
アレンジャーのsyudouら、制作チームと相談し、シンガーにはユイカを起用している。
「作品に登場するオーケストラにとって、ヨハン・パッヘルベル作の『カノン』は、意味のある楽曲だったので、なんらかの形で引用したいと話していたんです。僕がDTMでデモを制作し、アレンジはsyudouさんにお任せしました。
いろいろ試した結果、イントロ部分に『カノン』のメロディをサンプリングすることに。シンガーのユイカさんは制作当時、まだ現役女子高生で、透明感の強い声が、物語と合致したのでオファーしました。レコーディング開始時のテイクで、ユイカさんが歌詞に合わせ、少し泣きそうな声色で歌ってくださって、素晴らしかったので、それを生かす形で進めていきました」
バンドには石若駿(Dr)や高木竜馬(P)らが参加。さらにオーケストラはNHK交響楽団(以下N響)を招いている。
「ドラムやベース、ギターなどは想像通りに演奏され、最高でしたね。また、僕自身コンサートでの指揮の経験はありましたが、オケの録音は初めてで。自分の書いた曲をN響が演奏してくれるなんて、音合わせの音目から感動して、鳥肌ものでした。多くの人間が集まって演奏した時にしか起こらない“ズレ”がありました。どこまで人間味を残しながら、補正すればいいのか。初めてのことで迷いましたが、いい経験になりました」
最後に作詞の言葉と、漫才ネタの言葉使いの違いを聞くと。
「例えば、離れたくないけど、泣きながら別れを惜しむ2人の男がいたとする。その場合の僕なら“ドラえもんの最終回か”というツッコミをする。ネタの場合はウケるのが正義なので、誰にでも伝わるように“感動的なシーンか”と、表現を変える必要がある。
音楽の場合は、聴き手の感覚に委ねられるので、思いついたままでいい。伝わらなくても、余白をそのまま渡すことができる。そういう意味でも、音楽制作は自分勝手に作れるので、面白いんですよね」