岸田繁が語る「OPPRESSION BLUES (弾圧のブルース)」
『シンプルで端正な演奏とミキシングの素晴らしさにうなります』
改めて思ったのは、山下達郎さんは素晴らしいギタリストだということ。わかっていたつもりでしたが、「OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)」を聴いて実感しました。
ギターは、ストラトキャスターでしょうか。シングルコイルならではのトーンと、ピッキングのコントロールの絶妙さにうなりますね。歌声のふくよかさとはまた違った、味わい深いギターのトーンは、ほかの誰とも似つかない山下さんのオリジナリティだと思います。
そして、アルバムのほかの多くの楽曲にも当てはまることですが、今の音楽シーンでは聴くことが少なくなった、シンプルなバンド編成での生音、そして端正な演奏とミキシングの魅力に気づかされますね。
一方で、この曲では世界の情勢に対する鬱屈とした感情をモチーフに詞作をされていることがとても新鮮です。ラジオ『サンデー・ソングブック』を聴いている時にも思うのですが、山下さんの言葉は時にシンプルで真っすぐなメッセージを持っていて。音に関しての職人的なイメージとのギャップが魅力の一つだなとも思いますね。
今、日々のさまざまにうんざりするという方も多いと思いますが、この詞は、誰もが心の奥底に抱える気持ちに寄り添ってくれるものだと思います。
新曲を聴いて、改めて聴き直したくなったのは、「アトムの子」。私は山下さんの作品群の中でもリズミックな構築が心地よい楽曲が大好きで。なかでもこの曲のプリミティブなグルーヴに乗って自由に駆け回るメロディは、その不思議な調性感も相まって、シンプルな言葉に想像力というギフトを添えて私たちの記憶に訴えかけるものがあります。
またほかにも、山下さんに出会ったまさに原点の曲「クリスマス・イブ」も思い出しましたね。中学生の頃、FMラジオから流れてきて、声にも曲にも、一目惚れのような感覚を覚えて。すぐにシングルCDを買いました。細かいパッシング和音やサウンド処理、そして何より虹色のハーモニーを味わうことができる至極の名曲だと思います。