鳥居真道が語る「SHINING FROM THE INSIDE」
「ハーモニーのセンスに、オプティミズムを見る」
山下達郎さんの音楽とのファーストコンタクトは、幼稚園児だった頃にカーラジオで聴いた「アトムの子」でした。しかし、未就学児童がその曲を山下達郎の「アトムの子」だと認識するはずがありません。それでも「アトムの子」を聴くたびに車の窓から見えた見慣れない町の風景が蘇ってくるから不思議なものです。
パーカッションの応酬、同一フレーズの反復、コードの浮遊感、必殺のギターソロ。今でも大好きな曲です。幼少期に『ポンキッキーズ』でよく耳にした「パレード」も大好きです。可愛らしくてお洒落で浮遊感のある響きにぐっときたのだと今にして思います。
今回聴いた「SHINING FROM THE INSIDE」には、スタイルやテイストは異なるけれど、「パレード」に似た感触がありました。この曲でも発揮されている山下さん特有のハーモニーのセンスは、お洒落、洗練、都会的といった言葉で形容できそうですが、それだけでは言い表せられない何かがあるように思います。それは、ことによるとオプティミズムという要素ではないか、と今回新たに考えました。
山下さんの和声感覚には、チャップリンの「スマイル」のごとく「生きていると色々あるけれど、何はともあれ笑おうよ」的なオプティミズムが響いていると感じるのです。和声の響きは、我々の表情のように感情を伝えます。心は切なくても表情は明るく。そうした微妙なニュアンスを山下さんの和声の感覚から感じます。私はそこにオプティミズムを見るわけです。
「SHINING FROM THE INSIDE」では、長年取り組んでいる一人アカペラが改めて披露されています。アマチュア時代の自主制作盤『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』から『ON THE STREET CORNER』シリーズまで、山下さんのアカペラにかける情熱は一貫しています。時間対効果を意味する「タイパ」なる言葉がちまたを賑わせる昨今です。好きなことを究めたいのなら一生かけて取り組むべき。そんな矜持を背中で示す山下さんに背筋がピンと伸びる思いです。