寺尾紗穂が語る「うたのきしゃ」
「私たちの童心に語りかける、達郎さんの子守歌のようです」
この曲を聴いた時に最初に思い出したのは、長野の野沢温泉で歌われていた「ねんねんねむの葉っぱ〜」と始まる子守歌。眠ったらそのごほうびに、「まんまるお月さんの うさちゃんが ついたおもちを どっさりと いものお舟に つみこんで 坊やのところへ もってくる」と歌う歌なんですが、「うたのきしゃ」の、耳をすましたら君の大好きな汽車がやってきてくれるよと少年に語りかける優しい歌詞は、どことなく世界観が重なるなと。
達郎さんの子守歌みたいだと思いました。さらにそのまま大人である私たちの童心への呼びかけのようにも受け取れる。以前、達郎さんは「僕の中の少年」の中で、かつて幼かったものへの愛をややセンチメンタルに描きましたが、今作は同じテーマを、よりエネルギーに満ち溢れて、子供も大人も隔てなく走りだしたくなるような楽しげな雰囲気の曲の中で歌っています。
冒頭と後半に入る汽車のホイッスルや、蚊が飛んでいるみたいなユーモラスなエレキの音も効果的ですよね。一方で、2番Bメロの「君と僕はいつも ふたつでひとつだよ よろこびと迷いを 分け合い」という部分は、達郎さんから音楽そのものへのラブソングみたいにも聞こえてくる。色んな聴き方ができる歌だと思いました。
達郎さんは、すごく緻密な音楽作りをされている印象がありますが、それ以上に“エネルギーの人”だと感じています。父も含めて、すでに知り合いが亡くなることも多い世代だと思うのですが、この「うたのきしゃ」にもアルバム全体にも、永遠の青年感がみなぎっていることに驚きました。
そして改めて、同じミュージシャンとして達郎さんの楽曲を聴くと、言葉の選び方に無駄がなく、歌詞と音楽とがぴたりと一体になっていて見事だなと感じることが多いです。「クリスマス・イブ」の「雨は夜更け過ぎに 雪へと変わるだろう」というフレーズもまさにそう。そういう美しいフレーズがヒット曲になって、人々の記憶に残っていくことの素晴らしさを思います。