田島貴男が語る「フェニックス[2021 Version]」
「達郎さんの音楽は、ゴスペルだと思います」
アルバムのプレリュードとして、全体のコンセプトを暗示するようなイントロ曲だと思います。アルバムをひと通り聴いてから、またこの曲を聴くと、この一曲にアルバムが集約されているような感じにも聞こえます。それは音楽というよりも言葉、メッセージの部分でアルバムのあらすじを表している気がしました。
11年ぶりのアルバムでいろいろな時期に書かれた曲が収録されていますが、全曲を聴くと、ここ半年ぐらいの時期に書かれた歌詞のように感じられる。世界の景色の変化の中で、どういった曲を歌えばいいのかということを、達郎さんなりに考えられたのではないでしょうか。
ここ数年の日本や世界の流れ、現実的にはコロナやロシアのウクライナ侵攻に対する、我々の多くが感じているであろう救いや憤りの感情、ソウル、魂が全体に表現された、重たい内容のアルバムという印象ですが、未来へ向かって歩いていくことを歌う達郎さんの音楽は、ブルースというよりもゴスペルなんだと思います。歌詞を追いながら全曲を聴いて、またこのプレリュードを聴くと、「なるほど」と。
この曲とは対照的なのが『FOR YOU』の冒頭「SPARKLE」。「RIDE ON TIME」の大ヒットでイケイケの時期を維持するぞという、キャッチーな勢いのある曲で、同じ1曲目でも全く違いました。当時はパンク/ニューウェーブかぶれの中学生だったのでリアルタイムでは聴いていませんでしたが、高校生から大学生にかけてソウルミュージックに興味を持つようになってから、達郎さんの音楽に出会いました。特にライブ盤『IT'S A POPPIN' TIME』のLP2枚組は村上“ポンタ”秀一さんがドラムスで参加していて、アルバムとしては一番好きでしたね。
演奏が伸び伸びとしてるのが、本場のソウルミュージックのサウンドに非常に近いから、自分の好みだったということです。達郎さんの音楽は緻密でとことん構築されていますが、それに比べ僕はルーズな制作スタイルなので、聴くたびに音への執念を感じて学ばされます。