関口スグヤが語る「人力飛行機」
「土くさいサウンドでも、爽やかでハートフルな達郎サウンド」
出だしのリズムから「おや⁉」と耳を奪われてしまいました。山下達郎といえば「きらびやかな都会のサウンド」というイメージが強いですが、乾いたスライドギターで始まるこの曲はアルバムの中でも異彩を放っており、ここまでロックフレーバーの達郎さんは全作品の中でも珍しい。
昨今のシティポップ・ブームの影響もあり、クールで洗練されたサウンド面が語られることが多いですが、僕の中での達郎さんはソウルシンガーでハードロッカー。ライトメロウな美しさの奥底に、燃えたぎる骨太な“ソウル”が秘められていて、その両方を兼ね備えている部分こそが達郎さん唯一無二の魅力だと思います。
僕が達郎さんの音楽に出会ったのは中2の夏休み。大瀧詠一・山下達郎・伊藤銀次の3人による合作アルバム『NIAGARA TRIANGLE Vol.1』の中古レコードをお小遣いで買ったのが始まりでした。1曲目が達郎さんの「ドリーミング・デイ」で、針を落とした瞬間、“ニューオーリンズ・ビート”に乗っかった究極のポップサウンドが耳に飛び込んできて、「なんだこれは!」と体中に電撃が走ったことを今でも覚えています。
ニューオーリンズ・ビートとはアメリカ南部で生まれたリズムの名称であり、ざっくり説明すると「少しモタついた8ビート」という感じ。70年代中頃、大瀧さんや細野(晴臣)さんがこのあたりの“土くさい”音楽を探究していたのに対し、達郎さんが目指したサウンドは全く逆方向だったように思えますが、この「人力飛行機」では達郎さん流のニューオーリンズ音楽へのオマージュが感じられます。
達郎さんが土くさいサウンドを取り入れていることにも驚きですが、それ以上にすごいのはニューオーリンズのリズムが持つ“野暮ったさ”が一切感じられず、爽やかでハートフルな達郎サウンドに仕上げられていること。「ドリーミング・デイ」から今もなお徹底している、達郎さんのゆるぎない「ポップス魂」に強く胸を打たれました。