「今から5年ほど前、音楽ライターの松永良平さんと、フジテレビのプロデューサーだった故・黒木彰一さんの3人で食事をしたんです。その時に松永さんからニュー白馬の話題が出て、検索してみると、大きなホール型のキャバレーの写真が出てきて。結構驚いたんですよね。その後、2022年の坂本さんのツアー日程に、ニュー白馬での公演があることを知りました。
2009年にゆらゆら帝国の日比谷野音の映像を監督した経験から、坂本さん自身、ライブ映像を記録することに、あまり興味がないことはわかっていて。でも天命というと大袈裟だけど、ニュー白馬のライブは絶対に撮影したいと思い、坂本さんに連絡したんです。最初は消極的でしたが、16ミリフィルムで撮影することを提案し、承諾を得ることができました。
その時、僕はドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』の撮影中で、映像作家の重森豊太郎さんとご一緒していて、ニュー白馬の件を相談すると、KODAK社が16ミリフィルムでの撮影を推奨し、援助しているという話が出てきた。自費制作でしたから渡りに船。カメラを6台、カメラマンとフィルム交換のできる助手をかき集め、撮影に臨むことができました」

今回使用された16ミリフィルムは、1本につき撮影時間が約11分。フィルム交換のタイミングを計算し、6台のカメラの稼働タイミングを少しずつずらして撮影を進めた。しかし、4台のカメラが同時に止まってしまうなど、スリリングな瞬間もあったという。
「現場はもう戦場というか、あんな撮影は二度とできない(笑)。ライブ自体は『それは違法でした』や『スーパーカルト誕生』など、しっとりと始まって、徐々に盛り上がっていくセットリストが、本当に素晴らしかった。
バンドメンバーは、18年に坂本さんが国内でソロライブを始めてから不動の3名。超絶技巧的ではないけど、実はめちゃくちゃ難易度の高い演奏をしていて。後期のゆらゆら帝国のライブを観ていた時、“これ以上のバンドは出現しないかも”と思っていましたが、今の坂本慎太郎バンドは、別のベクトルで、最高のグルーヴと安定感が生まれていると思います。そんな演奏に、ニュー白馬のマジックが加わって、想像以上の出来になりました。坂本さんにも喜んでいただけましたね」
24年にNetflixドラマシリーズ『地面師たち』を大ヒットさせた大根監督。次作として坂本のライブを配信することを「自分でも少しカッコいい並びだと思う」と照れながら答える。
「坂本さんのライブの素晴らしさを、100年後の音楽ファンへ文化遺産として残したい気持ちで制作しましたから、なるべく多くの人に観てほしい。よく“自分のベスト作品”を聞かれても、照れくさいから誤魔化してきて。内心では2009年のゆらゆら帝国のライブを挙げてきたんです。でも『坂本慎太郎LIVE2022』は、これこそが自分のベスト作品になったと自負しています」