瀬戸内海の6つの島。しまなみ海道を走る自転車旅

photo: Tetsuya Ito

本州と四国をつなぐ自転車専用道路が整備されたしまなみ海道は、サイクリストの憧れのルートの一つ。本州側の尾道から入り、瀬戸内の海景と新鮮な魚介を求めゆっくりとママチャリを漕ぎだした。

初出:BRUTUS No.727『旅に行きたくなる』(2012年3月1日発売)

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瀬戸内海を自転車で渡る。広島県尾道から6つの島を抜け、愛媛県今治(いまばり)へ続く“しまなみ海道”。

車輪が滑らかに回転する舗装された道が約70km。気合の入ったロードバイクなら3時間ちょっとで通り抜けてしまう距離だが、瀬戸内を存分に堪能するには2泊はかかると見て、中間地点の生口島(いくちじま)、そして最後の大島で宿を取ることにした。寄り道しながらなので1日40km以上は走ることになる。普段自転車に乗り慣れていない者にとっては結構な距離だ。

尾道から生口島までは広島県で、大三島(おおみしま)から今治は愛媛県になる。方言もグラデーションで変化するというからおかしい。レンタルサイクルではママチャリを選択。自転車道は案内板も豊富でまず迷うことはないが、ママチャリに乗っていると気軽に道を外れたくなる。自治体が提示している推奨ルートからは積極的にコースアウトしてみた。街の名店に立ち寄りながら、「東京から来ました」などと話をするとサービスもいい。

メニューにないノンアルコールビールを自宅の冷蔵庫から出してくれた飲食店もある。「メニューにないから」とお代を受け取ってもらえなくて困った。旅人を歓待してくれる、やけに人懐っこいおばちゃんたちにもよく出会う。いったん話し始めると長いのでなかなか先に進めない。「この間、宿を取ってないっていうから泊めてやったんだ」。今どき、自宅に見ず知らずの旅人を泊めてくれる人がいるのに驚いた。

それにしてもママチャリは重い。なんでもない坂でも上りにはかなり苦労した。海岸線は平坦な場所も多いが、島なので特に内陸部は坂が多い。蛇行しながら、また無理をせずに自転車を押して上ったところも多い。しかしアップヒルもあれば当然ダウンヒルもある。潮風を受けての下り坂は本当に気持ちが良い。

また、しまなみ海道は柑橘海道でもある。街路樹にはレモンが、丘陵の畑にはミカンやハッサクなどが実っている。橙(だいだい)色の水玉模様の畑を縫うように坂道を上っていくと、目の先に青い瀬戸内海がせり上がってきて水平線をタンカーが進んでいく。そんなどこか懐かしい風景にも出会える。

6つの島をつなぐ橋の上から見渡せば、遠くには重なり合う島々、見下ろせば渦を巻く複雑な潮流や、川のような急流も見られる。複雑な潮目で育った魚介類を最高の調理でもてなしてくれる宿も揃い、終着の今治はB級グルメの宝庫。とても3時間では回りきれない。

因島から生口橋を渡り1泊する生口島へ。
大山祇神社前にある〈大漁〉の海鮮丼380円。

大三島の亀老山(きろうさん)展望台の夕暮れ。来島(くるしま)海峡大橋、今治市を望む。
伯方(はかた)・大島大橋をママチャリで疾走。ケーブルがグラフィカル。

しまなみ海道、寄り道案内

サイクリングロードには青いラインや道路標示があり迷うことは少ない。しかし時には道を外れて気ままに走るのも楽しい。ここではしまなみ海道を満喫するための寄り道案内をしたい。

しまなみ海道の地図

尾道から渡船が着く兼吉地区では〈住田製パン所〉と〈後藤鉱泉所〉に立ち寄りたい。因島では橋を降りてすぐの〈はっさく屋〉に。北ルートから回ってお好み焼き屋が集まる南の土生(じゃぶ)町へ。ここで遅めの昼食を食べた後、少し戻って生口島へ渡る。

瀬戸田の商店街にある海産物店〈龍宮城〉では自家製の干しダコをお土産に。瀬戸田で泊まった〈住之江旅館〉はタコ料理が自慢の宿。午後3時に地元の漁師から買い付ける魚は新鮮そのもの。

大三島では大山祇神社を抜けて西ルートを選択。遠回りでアップダウンも激しいが、鄙(ひな)びた漁村の風景が良い。伯方島はできれば一周したいが無理は禁物。次の大島は広いので余裕を持って挑みたい。亀老山の展望台には夕暮れを目指して登ろう。

大島では〈海宿 千年松〉に宿泊。〆の鯛めしは、一度は食べておきたい味。しまなみ海道は来島海峡大橋の〈サンライズ糸山〉でゴールだが、レンタルサイクルは今治駅近くでも返却できる。せっかくなので、焼き豚卵飯などB級グルメの宝庫である今治も観光していきたい。

サイクリングマップは何を使うといいか?

しまなみ海道をサイクリングする前にぜひ手に入れておきたいのがサイクリングマップ。もちろん現地でも手に入るが、各島のルートの詳細な解説、グルメ情報、マップの見やすさを含め、最も優秀なのが『しまなみ島走Map』。

しまなみ海道でサイクリングツアーを開催している〈シクロツーリズムしまなみ〉が発行している、ツアー参加者や提携先に配る地図だが、ホームページから申し込めば、発送手数料(送料込み)だけで全7枚のセットを送ってくれる。現地のプロが作っているだけあり、有料の地図よりもよっぽど詳しい。

レンタルサイクルのターミナルはしまなみ海道の各地に14ヵ所あり、どこでも乗り捨てられる。地図で場所を調べておくと、調子が悪くなった時に交換してもらえ安心だ。

『しまなみ島走Map』
一番上が、昨年発行された『しまなみ島走Map』。因島・向島編、生口島編、大三島編、伯方島編、大島編、上島町編、今治編の全7枚が揃う。

TRAVEL DATE

交通/新幹線は福山駅で下車、在来線のJR山陽本線に乗り換えて、20分ほどで尾道駅に到着する。

食事/瀬戸内海の鯛やタコをはじめ、高級魚アコウなど、新鮮な魚介類を楽しめる。今治は焼き豚卵飯、鉄板焼き鳥などB級グルメの宝庫。

季節/日差しの厳しい真夏を避けて、春先から秋にかけてがおすすめ。

見どころ/各島に架かる橋は巨大、かつ美しい。橋の上から見る瀬戸内海の複雑な潮流は一見の価値あり。

その他/GWや夏休みなど繁忙期はレンタルサイクルが品切れになる場合もあるので予約を。尾道港(駅前港湾駐車場)TEL:0848-36-5031