家飲みにも、ちょうどいい焼酎
東京と長野との二拠点生活をしている内沼晋太郎さん。車での行き来が多くなり、外で飲む機会は減ったというが、普段どのようにお酒を楽しんでいるのだろうか。
「外で飲み歩く時間は前より少し減りましたが、その分、家に地元の友だちを呼んで過ごす時間が増えました。〈本屋B&B(BOOKS&BEER)〉をやっているくらいなので、ビールはもちろん、ほかのお酒も好きでみんなで楽しんでいます。妻が九州の出身なので、焼酎も身近な飲み物のひとつですね。2016年6月から1年間だけ、福岡で〈B&B〉の支店として〈Rethink Books〉を開いたときには、九州でお店をやるならやはり焼酎は欠かせないということで“本とビールと焼酎と”をテーマにしていました」
もちろん、〈赤兎馬〉も知っているという内沼さん。どんなイメージを持っているのか、改めて飲んでもらって印象を聞く。
「焼酎というとデザインも中身もインパクトのあるものが多いイメージですが、〈赤兎馬〉は見た目によらずフルーティで飲みやすいですね。最近はロックやストレートでなく、いろいろなお酒を楽しんでからまだもう少し飲みたいときに、焼酎を水やソーダで割って薄めにして飲んでいます。その時々で、自分の好きな濃さで飲むことができるのも、焼酎のいいところですよね。〈赤兎馬〉は香りも良いので、薄めにしても存在感があって美味しい。ワインなどはみんなで飲むとかなりたくさん必要ですが、さすがに〈赤兎馬〉がすぐに何本も空くことはないので、友人の家に持っていったときにゆっくり飲める良さもあります」
〈赤兎馬〉を飲みながら読みたい本とは?
寝る前のベッドで、最後の一杯を飲みながら本を開くこともよくあるという。今回は、〈赤兎馬〉を象徴する「赤」と「黒」をテーマに、お酒と一緒に楽しめる物語を考えてもらった。
「お酒を飲みながらだと、長時間、本に集中するのはなかなか難しい。けれど、お酒が入っている分、内容に強くインスパイアされることってありますよね。物語というと小説など一定の長さのある作品をイメージするかと思いますが、そうなると飲みながら飛ばし飛ばし読むのは難しいので、短く楽しめて、なんらかの物語を感じられ、かつ赤と黒の表紙であるという、ものすごく狭い範囲にマッチする本を選びました」
ながら読みでもガツンとくる「赤」の本
川合大祐『リバー・ワールド』(書肆侃侃房)
「赤」から導き出された最初の本は、現代川柳で知られる川合大祐の『スロー・リバー』に次ぐ、2冊目の川柳句集。分厚い本をめくると、大きな文字で1ページに3句ずつ、全部で1001もの句が押し寄せるように飛び込んでくる。
「本の帯に書かれた『トマト屋がトマトを売っている 泣けよ』という作品から、もうすごい。かなりのインパクトがありますよね。表紙の赤はトマトの色なのかなと、僕は思っているんですけど……。最も短い言葉で、広く深く、想像したこともないような変なかたちをしたイメージが、次々と怒涛のように突きつけられる。お酒を飲みながらパッと開いて読める本の最たるものではないかと思います。読み終わった後の余韻も〈赤兎馬〉とマッチするのではないでしょうか」
チャールズ・ブコウスキー『書こうとするな、ただ書け:ブコウスキー書簡集』(青土社)
2022年2月に刊行した、作家で詩人のチャールズ・ブコウスキーの書簡集。ブコウスキーが作家や編集者に宛てた「書くこと」にまつわる手紙が、いたずら書きなどとともに忠実な再現で収められている。
「本書の原題は『ON WRITING』ですが、このアンソロジーをまとめたアベル・デブリットの出した本の中には、お酒のことだけについて書かれた『ON DRINKING』という本もあります。そのくらい酒飲みとしても知られるブコウスキーの本は、ストレートにお酒と向き合うのにもってこい。編集者に対する皮肉や、他の作家の作品に対する遠回しだったり直接的だったりする意見などに、作家としての表現がきちんとあるのも面白いなと思います。作家自身が書くということについて、これだけ多くの手紙を綴っていたのかという驚きもあります」
たくさんの物語を詰め込んだ「黒」の本
『広告 Vol.416 特集:虚実』(博報堂)
物体としても存在感を放つ、2022年3月に発売された『広告』の最新号。6号単位で博報堂のクリエイティブ・ディレクターが編集長を務める雑誌で、こちらは現在の編集長である小野直紀さんが手がけた4号目。
「黒い本ということで真っ先に思ったのが、小口まで黒い『広告』の虚実特集。小野さんにはプロダクトデザイナーの側面もあり、造本や流通の根本から徹底的に考え直して制作されています。これまでの3号の表紙も、全てミニマムでストイック。配送時のダンボールが表紙になっている前号もすごかったし、今回は虚実の特集ということで、宣伝時には真っ白い本かと思わせておきながら、実物は真っ黒い本だというギミックも、めちゃくちゃカッコいいですね。中身もたくさんのインタビューやエッセイが入っているので、どこから読んでもいいし、お酒を飲みながらでも。チャレンジングな精神、歴史を革新していく姿勢は、〈赤兎馬〉の世界観にもつながるのかなと思います」
チャールズ・シミック『コーネルの箱』(文藝春秋)
NYの古本屋や小道具屋で見つけた小物を、小さな木箱に忍ばせる“箱のアーティスト”、ジョセフ・コーネル。コーネルの34の作品に、アメリカの詩人チャールズ・シミックが小文を添える。
「ジョセフ・コーネルの作品集であり、そこからインスパイアされたチャールズ・シミックのテキストが作品と交互に収録された本。物語が詰まった箱の作品の間に、さらにシミックによる物語が挟まることで、全体として物語感が濃厚に凝縮されているように感じます。小箱の中の物語は、小さな瓶の中に大きな物語が詰め込まれた〈赤兎馬〉とも相性が良いのではないでしょうか」
お酒と本が出合うことの面白さ
これまでに様々なテーマで選書をしてきた内沼さんだが、こんなにはっきりと「赤」と「黒」という鮮烈な色から本を考えたのは初めてという。
「こんな機会はなかなかないですよね。でも、今回の〈赤兎馬〉と『赤』と『黒』というテーマのように、偶然の組み合わせから生まれる面白さのようなものってあると思います。例えば、仲の良いカップルがデートに来てみたら、似たような格好をしていた、というようなことはよくあるじゃないですか。ボトルと同じ色の本を読むことから、そういう仲の良さが滲み出るみたいなことがあればいいのかなと。〈赤兎馬〉が飲めるお店で、〈赤兎馬〉とのペアリングで本を出す、というのもやってみたいですね」