「ウィスキングといえば、バルト三国」というイメージを持つ人も多いかもしれない。しかし、サウナ大国・フィンランドにも近しい文化はある。サウナと自転車好きのフィンランド人、ユハ・クマラとマッティ・ケミは、コンケリ(フィンランド語で自転車を表す俗語)にまたがり自国の自然信仰や伝承、抒情詩を採集。旅で得た知見をもとに“サウナセレモニー”を確立。ウィスキングの要素も多分に含んでいる。
今回、2人を日本に呼び寄せた〈The Sauna〉支配人の野田クラクションベベーさんに“サウナセレモニー”とは何か尋ねたところ「言葉で伝えるのは難しいんですよね」という答えが返ってきた。どうも、いわゆるウィスキングとは似て非なるものらしい。
「僕もフィンランドで体験して、本当に生まれ変わった気分になったんです。なので、実際に受けてもらった方が早いなと。少し前にリトアニアのバスマスター(ウィスキングの国家資格を有する専門家)をお招きしてウィスキング研修も受けましたが、2人のセレモニーはそれとも異なる唯一無二の体験。今後、日本で受けられるタイミングはあまりないと思うのですが、フィンランドに行く機会があればぜひ体験してほしいです!」
果たして、サウナコンケリが行うサウナセレモニーとは何か。実際に体験したあとに行ったインタビューから、謎めく内容を紐解く。
サウナとヴィヒタ
フィンランドの森から届いた贈り物
今、日本でもウィスキングがブームになりつつあります。しかし、お2人が行うセレモニーはバルト三国で受け継がれてきたウィスキングとは異なるものなんですよね?
マッティ・ケミ
フィンランドにもヴィヒタ(=ウィスク)で体を刺激する文化は昔から存在していました。ウィスキングと呼ばれる施術方法は、どこが発祥というわけでなく、サウナのある国では誰もがやっていたことで、伝統的な文化です。
ユハ・クマラ
リトアニアでは他者に何かを施す文化が大切にされています。片や、フィンランドでは誰かに施すよりもセルフでやるんです。ですので、ヴィヒタのテクニック自体は誰もが持っているものです。
フィンランドでは、プロがサウナで施すサービスはないのですか?
マッティ
そんなことはありません。数十年前の公衆サウナには「サウノッタヤ」と呼ばれる職業の人たちが存在しました。サウナを暖めることから始まり、状況を見てロウリュをするなど、サウナにまつわるすべてを担う存在です。体を洗うサービスの一環で、日本でウィスキングと呼ばれているような施術も行われていました。
フィンランドにも古くから施術自体があったわけですね。お2人のセレモニーはそうした伝統の上に成り立っているのでしょうか?
ユハ
フィンランドの伝統や伝承、シャーマニズムなどをベースに、より深く自然を感じてもらうための独自プログラムを用意しています。
実際に体験させてもらいましたが、4つのセッションで構成されていました。それぞれで行われた内容について教えてください。
マッティ
最初に行った瞑想は心の準備であり、サウナに宿る精神をリスペクトするための準備段階です。
次はロウリュがメインでした。
ユハ
日本でもよく知られている「ロウリュ」は、自分自身、あるいは自らを保つエネルギーなどを表す言葉がもとになっています。そうしたロウリュ本来の精神性を感じてもらうためのターンです。
3セッション目ではヴィヒタを使ったマッサージ、いわゆるウィスキングを受けました。
ユハ
ヴィヒタは森からのギフトであり、象徴です。体を叩く行為にはマッサージ要素も含まれており、参加者を癒やすことができます。様々なテクニックを駆使することで、健康学的な効果を与えることもできます。同時にヴィヒタを介して自然と触れ合い、自然と体を交流させること。
サウナには、石、水、風、火、木といった自然の要素が詰まっています。教会のように神聖で、精霊が宿る場でもあります。その精神性を感じてもらうことが重要なのです。
マッティ
フィンランドにも様々なスタイルのサウナ・マイスターが存在しますが、私たちは特に自然との繋がりを重要視してきました。ヴィヒタを通して、フィンランドの森を感じてもらいたいのです。
手を重点的にマッサージされたのですが、参加者によって施術内容を変えているのでしょうか?
マッティ
事前に情報を得て施術することもあれば、その場の雰囲気で変える場合もありますね。
2人の織り成す古い歌のハーモニーなど、すべてがほかでは得られない体験でした。
マッティ
サウナに正解はありません。サウナコンケリのサウナセレモニーも常に変化していきます。多くの人がサウナを楽しみ、自然と繋がること。それこそが、私たちの求めることです。