自転車好きフィンランド人が確立。 死と再生の神秘的なサウナセレモニー

旅先で伝統と神秘に出会い〈Saunakonkeli(サウナコンケリ)〉を結成したサウナと自転車好きのフィンランド人ふたり組。彼らは、サウナ室に森を呼び起こすためのオリジナルセレモニーを確立した。

text: Towel Kanai / coordinate: Ayana Kobayashi

旅とサウナは、
やがて森につながる

フィンランドでも珍しい、毎日サウナに入る両親のもとで育ったユハ・クマラ(Juha Kumara)は、大学入学前にエストニアの深い森のなかではじめてウィスキング(主に施術者がヴィヒタで身体を叩くマッサージのこと。ラトビアやリトアニアでも行われており、施術内容は国や施術者によっても異なる)を体験。サウナを多角的に知りたくなり、サウナハットをテーマに学士論文を書き上げる。

やはり子どもの頃からサウナが好きだったマッティ・ケミ(Matti Kemi)は、いまでも母親の膝の上に乗せられてサウナに入った日のことを覚えている。幼少期から独りで過ごす時間を好み、19歳の頃にはサウナはメディテーションの場となっていた。

サウナコンケリのマッティとユハ
写真左から、マッティとユハ。ユハの着ているサウナウェアも伝統的なものだとか。

自転車で各地を回り
伝統と神秘の世界を知る

共通の友人を介して出会ったふたりは、同じシェアハウスに暮らすこととなる。サウナ好きで自転車好き。意気投合したふたりは、それから何度も自転車で旅に出ることとなる。あるとき、そんなふたりにラジオ制作プロジェクトに関わっていた別のシェアメイトは「旅先にレコーダーを持っていって、なにかおもしろいものを取材してきてよ」と声を掛ける。そこで持ち上がったテーマが「サウナ」だったのだ。

マッティの脚に入っている〈サウナ・コンケリ〉のタトゥー
マッティの脚には〈サウナ・コンケリ〉のタトゥーが入っている!

何百キロもの道のりをコンケリ(日本語で言うところの「チャリ」みたいな、自転車を表す俗語)にまたがり、伝統的なサウナ・ヒーラーやフィンランドの自然信仰、シャーマニズムを継承・研究する人たちを訪ねてまわり、伝承や抒情詩を採集。いくつもの古いスモークサウナを訪れることもあった。

旅から戻ったあとも、エストニア仕込みのウィスキングを提供しているひとのワークショップに参加したり、リトアニアの国際的なワークショップでウィスキングを学んだりしながら、より深くサウナの世界へ傾倒していく。そして旅から戻ったふたりは、旅先で出会った、伝統と神秘を人々に伝えるために、〈Saunakonkeli(サウナコンケリ)〉を結成した。

サウナ室の窓際に植物を配置することで、視覚的にも森を感じさせてくれる。
サウナ室の窓際に植物を配置することで、視覚的にも森を感じさせてくれる。

サウナの守り神である“サウナトントゥ”は「静かで暗いサウナを好む」と言われている。元来、サウナとは暗く静かで温かいリラックスの場。清潔であるため、出産の場としても活用されていた。

ふたりがウィスキング文化を取り入れながら完成させた神秘的なセレモニーは、サウナに対する感謝の詩を朗読するところから始まる。その後、木片を燃やすことで薫香を与え、ロウリュで水と風を感じさせる。そうして、セレモニーのメインとなる様々な植物の葉を使ったウィスキングを施されている頃には、静かで仄暗いサウナ室は、深い森が呼び起こされたかのような静寂の場所となる。

深く自然に溶け込み
死と再生を疑似体験する

参加者は、石、水、風、火、木といった自然の要素が詰まったサウナ室内で五感を刺激されることで、より深く自然と交感。身も心も生まれ変わったかのようなフレッシュな状態になる。ふたりの紡ぎ出すのは、まさに死と再生の物語なのだ。

最古の公衆サウナ〈ラヤポルティサウナ〉看板
タンペレにあるフィンランドで現存する最古の公衆サウナ〈ラヤポルティサウナ〉。ここを貸し切って彼らのセレモニーを受けることもできる。

マッティとユハには別の本業があるが、〈サウナ・コンケリ〉は仕事であると同時に趣味で、自分たちを旅に導くための道標でもあるという。最新情報はインスタグラムのほか、日本語訳も掲載されている公式サイトでもチェックできる。

本場・フィンランドでサウナ旅を計画しているひとは、ぜひとも〈サウナ・コンケリ〉のセレモニーを受けてほしい。きっと、サウナ観が大きく変わるはずだから。