Play

Play

遊ぶ

写真家・佐内正史が『ドラクエⅩ』の世界の中で、写真を撮り続ける理由

自分だけのアバターを作って冒険を楽しめる『ドラゴンクエストⅩ』の世界で、写真を撮り続ける佐内正史。彼のアトリエで、その訳を尋ねた。

photo: Mitsue Yamamoto / text: Kenta Terunuma

写真家として、『ドラゴンクエストⅩ』(以下『ドラクエⅩ』)の世界でたくさんの写真を撮ってきました。『ドラクエⅩ』はMMORPGなので、現実の人間が操作するキャラクターと一緒に冒険をします。みんなで討伐に行った帰り道や、ゲームの中で雨が降るのを見たときに、自然と「写真を撮っておこうかな」と思ったのがきっかけでした。

実は、僕は一人でいるときは写真をあまり撮らなくて、誰かと一緒に過ごすと撮りたくなる。それはゲームの世界でも一緒でした。『ドラクエⅩ』は現実そのもので、そこには人がいるし、自分の日課がある。2時間くらいこなして、初めて冒険に出かけられるんです(笑)。

そういう“生活”があるから、僕はドラクエの世界でも写真を撮っていたんだと思います。ただ、それは「日常を撮る」ということではない。生活の中からは、「写真を撮るムード」みたいなものが現れてくるんです。

『ドラクエⅩ』には、家を改装して写真を展示できる仕組みがあって、観に来た人たちは、撮った僕とは違う色んな感想を持っていました。現実世界の写真と、何も変わらない。写真そのものは「止まった時間」であり、「動きのない紙」です。でも鑑賞者と写真の間には、もう一枚の写真があって、そこに「動き」が生まれている。僕はそう思います。

だから現実でも『ドラクエⅩ』でも、「写真を撮るムード」を感じたら、少しずらしながら撮る。被写体をそのまま捉えるんじゃなく、少し寄ったり右側にずれたり。被写体の手前にある「もう一つの時間」にフォーカスを合わせていく感じです。

ゲーム『ドラクエⅩ』の画面の撮影カット
『ドラクエⅩ』の中で撮りためた写真を一点ずつPC画面に映し、それらをフィルムカメラで複写して楽しんでいる。「ゲームの中を歩いていると、寂しくてキュンとする景色に巡り合うときがある。何がそうさせるのか、だいたいは謎なんだけど」。

自分とは別の写真家としてシャッターを切る感覚

そんなふうに普段と同じように写真を撮ってきたんですけど、実は『ドラクエⅩ』の中と現実とでは、僕はちょっと違う写真家です。というのも、僕はゲームの中では5人のキャラクターを使い分けていて、それぞれ住む家も、種族も、性別も、体格も違う。だから、みんな撮る写真が変わってくるんです。中にはほとんど写真を撮らないキャラもいて、生活が変われば、撮る写真も変わる。そういうことなんでしょうね。

僕は90年代の半ばくらいまで、一人で「止まった世界」の写真をやっていました。でも、中村一義やくるりの写真を撮り始めた98年頃から、そっちの世界に行くのをやめたんです。仲間ができたことで、邪魔が入って一人の世界が壊れ、写真が曖昧になって、「動く」しかなくなった。それから僕は一人では写真を撮らなくなりました。

『ドラクエⅩ』の「テン」って「Ⅹ」と書きますけど、まるで人が交差しているみたいですよね。人と関わるのが面倒くさいと、オンラインゲームをプレイしない人も多いと思います。でも、僕はやってみた。そしたら、写真が生まれていったんです。

写真も、ゲームも、一人で没頭できるもの。でも僕は、それはあまりやりたくないんです。最初の『ドラクエⅠ』を思い出すとき、ゲームの画面だけじゃなく、友達と一緒にプレイしていた部屋の光や空気が一緒に蘇ってくる。そこには生活があって、友達がいる。ゲームって、友達って、最高だよ。そう思います。

写真家・佐内正史が複写したコンタクトシートやプリント
複写したコンタクトシートやプリントの数々。「中には現実で撮った写真も交ざっているから、一体どっちの世界の写真だか、自分でもわからなくなることもあります。でも、わからないままでいいのかもしれないですね」