ルールは必要ない。正しいと思うことを大切に
ノルウェーでサウナが文化として認識され始めたのは2017年くらい。サウナ好きが増えてきたのは、実はここ最近の話なんですね。サウナは日常にありましたが、文化的な意味合いでは存在しませんでした。私はそんなノルウェーのサウナ文化に、大きく貢献してきた一人です。
私が最初にサウナやお風呂の文化に触れたのは、6歳の頃だったと思います。叔父からもらった薪のサウナストーブがきっかけでした。大人になり、これまで多くのフェスティバルや大きな文化的なプロジェクトを手がけてきましたが、どのプロジェクトでも、必ずサウナを建てました。夜には、働いている人たちと皆でサウナへ入り、リラックスする。サウナは健康のためにも美容のためにもとてもいいものです。
2006年の7月、私は古い捕鯨船を買いました。この船をバスボート(風呂を搭載した船)に変えようと思いついたのです。船上にサウナ、ハマム、小さなレストランを設けようと。それで建築家の友人に電話で相談したら、「サミに相談するといいよ」とある人物を紹介してくれました。サミ・リンタラ(Sami Rintala)はフィンランドの建築家であり教授で、2000年代はノルウェーに住み、世界中で多くの学生に対してワークショップを開催していました。
彼は、90年代のかなり早い時期から、学生たちと一緒に様々な種類の「水に浮かぶサウナ」をたくさん造っていたんですね。それはとても美しいプロジェクトでした。世界で最初の商業用のフローティング(水に浮かぶ)サウナは、ノルウェーのプロジェクトから始まったんです。この捕鯨船の改装をきっかけに、私もよりサウナに魅了されました。
私の起業家としての軸は「文化」です。2014年、ノルウェーの北部で、ノマディックアート(遊牧民の芸術)の文化プロジェクトとして、全長170mの大きな〈SALT〉を建造しました。建物はノルウェーの北部の漁師が干物を作る、魚の解体や加工に使う建造物を模しています。
今の場所にある〈SALT〉の建物はそこから移設したもの。〈SALT〉は遊牧民のように移動するプロジェクトで、北方沿岸部に生きる人々の哲学である「流動」を基礎としています。ここオスロからスタートしましたが、いずれ日本にも流れ着きたいですね(笑)。
現在の場所に移設したのは、オスロ港に頼まれたからです。コンサートを開催してくれたのがきっかけですね。最初は2年契約でしたが、オスロ港側がとても気に入ってくれて、現在、2027年まで契約しています。
私たちがやっていることは、演劇やコンサート、サウナやお祭り、そのすべてがミックスされているようなものです。そこには人生における良いものが全部集まっていますよね。私にはルールなんて必要ありません。ただ、人々を幸せにするために、集まって一緒に楽しい時間を過ごすだけです。〈SALT〉はそういう場所です。
(〈SALT〉では若者と老人が交ざってサウナに来ているのはなぜかという質問に)日本ではそうならないんですか?不思議ですね。恐らく、私がそれほど流行に関心がないからでしょうね。新しいものも好きだけれど、そうでないものも好き。どうでもいいんです。何事にも流されず、自分が正しいと思うことをすることが大切なんですよ。
ある本には1,000年以上前から、バイキングにとってサウナに入ることはとても大事なことだったと書かれていました。大事なことはいつだって不変なのです。