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前代未聞。求む、坂本龍一のピアノを自然に還す実験者

生前、坂本龍一が「自然に還す実験」と呼び、自邸の庭にピアノを野ざらしで置いていたことを知っているだろうか?今回、坂本龍一が遺したものを共有化する試みを実践する「sakamotocommon(サカモトコモン)」が、坂本自身が庭で実験を行ったように、新たに彼のピアノを自然に還す実験を実践するコラボレーターを募集するという。

text: BRUTUS


「ピアノを自然に還す実験 - 2」
コラボレーター募集開始

坂本龍一がニューヨークの自宅の庭でピアノを自然に還す実験を行っていたことを知る人は少ない。晩年に使われていた坂本のアーティスト写真に本人と共に写る実験中のピアノがそれだ。

2014年に患った中咽頭がんの療養のために訪れていたハワイで偶然出合った90歳近いという古いピアノを自宅の庭に持ち帰り、この実験が始まった。坂本は雨風にさらされ朽ちていくピアノの微細な変化を毎日観察していた。時にはそのピアノを弾くこともあったという。

坂本龍一のニューヨークの家の庭に置かれたピアノ

亡くなった今、日本での上映が切望される坂本のMR作品《KAGAMI》のプロデューサーでもあるトッド・エッカートのニューヨーク北部にある別邸の庭に移され、自然に還す実験は続けられている。(特集「わたしの知らない坂本龍一。」ではトッド・エッカート氏へのインタビューも掲載)

今回、「ピアノを自然に還す実験」の第2弾の実験者となるコラボレーターの募集が開始された。募集したのは坂本龍一が遺したものを共有化する試みを実践する「sakamotocommon」。

ただ今、準備中。sakamotocommonってなんだ?

「坂本龍一は、完成した作品よりも、『プロセスが面白い』と常に語っていました。であればこそ、遺されたものは美術館や博物館の奥深くに『収蔵』されるべきものではなく、坂本自身が死してもなお、新たに耕され、更新されていくべきもの、『プロセス』はいつまでも続いていくものだと考えます。「sakamotocommon」は、その『プロセス』を含めみなさんに開放していくことを試みます」(「sakamotocommon」HPより抜粋)

コラボレーターに渡されるピアノは、坂本の最後のアルバム『12』制作で使用したピアノ(1960年代に作られたSTEINWAY&SONS Z114/チッペンデール)。実はこのピアノは坂本が入手した当初より音色は良好とは言えず、調律を重ねて、録音できるレベルに達することができたもので、現在も演奏できる状態ではあるがベストの音色ではないという。

そこで、「sakamotocommon」では、坂本自身が庭で実験を行ったように、このピアノを自然に還す実験を実践するコラボレーターを募集し、この実験の公開を通じて、坂本龍一の知的・物的遺産を共有することを試みる。

この動画で坂本が演奏しているのが、今回コラボレーターに渡されるアルバム『12』制作で使用したピアノだ。

諸条件をクリアしたコラボレーターは、自らピアノを自然に還したい土地を定め、その地にピアノを置き、坂本がそうしていたようにその変化を観察し続けることになる。

前代未聞のコラボレーター募集。我こそはという人がいれば、「sakamotocommon」の活動支援を目的としてスタートしたクラウドファンディングのページを覗いてみてほしい。