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坂本龍一とクラウドファンディング。未来へ遺すための化学反応は起こるのか?

今、世界で初めて、坂本龍一に関係するクラウドファンディングが実施されている。坂本龍一とクラウドファンディング。一聴すると、適切ではなく是非が問われかねない組み合わせにさえ思える。しかし、プロジェクトの目的と返礼品に目を凝らすと、アーティストが遺したものと私たちの新しい関係の可能性が見えてくる。

text: BRUTUS


「あなたの初期衝動を、かたちにする。」を標榜し、アーティストやクリエイターの思いをクラウドファンディングという形で実現させる『うぶごえ』のトップページに「坂本龍一」の名前が掲げられたのは2024年11月22日のことだ。プロジェクト名は「未来のクリエイターのために、坂本龍一が遺したものを共有化する試み『sakamotocommon』を設立。」。多くを語らずスタートしたこのプロジェクトは今、着実に賛同者を集め始めている。

坂本が亡くなった今、なぜクラウドファンディングを行うのだろうか?

坂本龍一が遺したものを共有化する試み「sakamotocommon」は、坂本龍一の知的・物質的遺産のコモン化(共有化)を目指し、未来のクリエイターのために利活用することを目指している。この文章だけだと少しわかりづらい印象があるが、坂本の蔵書を共有する取り組み「坂本図書」、坂本が生前愛用していた機材をそのまま移設活用し、次世代に継承する活動「アーティスト・イン・レジデンス スタジオ(仮称)」など、すでに動いている関連の活動を見ると、そのアウトラインが見えてくる。

ただ今、準備中。sakamotocommonってなんだ?

当然であるが、偉大なアーティストであればあるほど、ファンやフォロワーも多く、遺されたものの行く末の注目度は大きい。坂本の場合、残された坂本の事務所や関係者の選択は開かれた形での“コモン化(共有化)”だった。

そして、それを新しい形で模索していく取り組みとして、「sakamotocommon」の設立とクラウドファンディングの実施は、普通ではなく、険しい道にも思えるだが、坂本自身が生前、「完成した作品よりもプロセスが面白い」と語っていたことを考えると、必然の選択のようにも思われる。

このクラウドファンディングには、坂本の遺したものを共有できる多様なコースが用意され、それを閲覧するだけでも「sakamotocommon」が実現したいことの一端を知ることができる。

生前、坂本がニューヨークの自邸の庭で行っていた「ピアノを自然に還す実験」の第2弾の実験者となれる権利。坂本が生前愛用していた機材を利活用した「アーティスト・イン・レジデンス スタジオ」において、NYのプライベートスタジオで約15年、坂本の音楽制作に並走したアシスタントエンジニアがガイドする試聴会。「坂本図書」を1日貸し切れる権利。坂本の未発表フィールドレコーディング音源データ。など、どれも坂本が遺したものを共有できるものとなっている。

前代未聞。求む、坂本龍一のピアノを自然に還す実験者

所在地非公開。坂本龍一の面影を感じる図書室、〈坂本図書〉へ

また、このクラウドファンディングの目的は「sakamotocommon」の活動への支援なのだが、早速、その活動の初号プログラムが同時に開催される。

2024年12月16日から10日間限定で、2025年1月26日にグランドオープン予定の〈Ginza Sony Park〉にて開催される「sakamotocommon GINZA」がそれだ。注目を集めるGinza Sony Parkをほぼ全空間を使い、坂本が遺したものを体感できるプログラムになっているが、入場に際して、クラウドファンディングへの参加が必須となっていて、参加すれば会期中に何度も訪れることができる。

クラウドファンディングで集められた資金の一部は、「sakamotocommon GINZA」開催のための制作費に充てられる。つまり、クラウドファンディングに参加することで、その参加者も坂本龍一の遺したものを未来へ繋ぎ、それを一緒に広げていく当事者となり、かつ、坂本の遺したものを享受することができるという連環関係の中に入っていくことができる。

「sakamotocommon」の取り組みは始まったばかりで、その先行きは見えない。しかし、坂本が言っていた「完成した作品よりも、プロセスが面白い」の“プロセス”がもう始まっている。今、そのプロセスの当事者となるまたとない機会が生まれている。

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