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新しいのに、懐かしい。令和の新・大衆酒場6選

平成から令和へと時代が変わったのとシンクロするかのように、昭和の大衆酒場へのオマージュ的要素のある「新・大衆酒場」が増えている。新しいけれど、懐かしさを感じる。でも、今の気分にフィットするつまみや酒もあって、居心地がいい。それが「新・大衆酒場」。

初出:BRUTUS No.899「ますます!おいしい酒場。」(2019年8月15日発売)

photo: Shin-ichi Yokoyama, Yoichiro Kikuchi, Yoko Tajiri, Hisashi Okamoto / text: Haruka Koishihara

店先に赤ちょうちんが灯り、コの字カウンターでは、日本の高度成長期を支えるモーレツ社員が、杯片手にその日の疲れを癒やす……。昭和から長く続いている大衆酒場は、こんなイメージだった。

平成末期には、そうした古くからの酒場巡りが、男女や世代を問わずブームに。吉田類さんに代表される酒場の達人が薦める店は、たちまち人気店の仲間入り。

未知の世界を覗く冒険的な要素があるし、一歩足を踏み入れてみれば気のおけない仲間と集える雰囲気、つまみや酒が豊富で安く楽しく飲めることなども、支持を集める理由だろう。「ホッピー」「キンミヤ」「サッポロ赤星」など、居酒屋ならではだった酒の銘柄もすっかり市民権を得た。

そして、平成から令和へと時代が変わったのとシンクロするかのように、昭和の大衆酒場へのオマージュ的要素のある「新・大衆酒場」が増えている。

店の人とのコミュニケーションもとりやすい「コの字カウンター」、店内の壁をきょろきょろと読みながら何を頼もうか考える時間も楽しい「短冊メニュー」、開店間もなくても、空間に刻まれた風合いがいい味を出している「居抜き物件」、靴を脱ぐのはちょっと面倒なようで、実はくつろげる「小上がり」。

新しいけれど、懐かしさを感じる。でも、今の気分にフィットするつまみや酒もあって、居心地がいい。それが「新・大衆酒場」。

鳩乃湯(学芸大学)

銭湯を改装したような趣の酒場

鳩乃湯の店内
コの字カウンター

壁面こそコンクリートむき出しでクールな印象だが、弧を描くのが特徴的な木製のコの字カウンターを中央に配し、店内のあちこちに大衆酒場へのオマージュが見て取れる。刺し身、自家製がんも、スパサラ、ちくわの磯辺揚げ……と、品書きに並ぶつまみも、昔ながらの酒場でお馴染みのもの多数。また焼酎の割り材はお茶各種、ジュースなど幅広く。すべてが程よく、近所にあったら常連になりたい!

鳩乃湯のスパサラ、赤しそ風味のバイスセット
カレー風味がアクセントのスパサラは山盛りがうれしい。赤しそ風味のバイスセットは、大衆酒場の定番。

・コの字カウンターに小上がりがノスタルジック。店名は池袋店店長の実家の銭湯から。
・酒場の定番メニューや酒を網羅しつつ、ラムカツといった独自の一品も。
・サウナの温度計、横尾忠則のポスター、ひょうたんスピーカーなどディテールにも注目。

必ず食べたいつまみ:自家製がんも。

山谷酒場(三ノ輪)

元喫茶店店主が開いた、奥深い酒場

山谷酒場の店内
短冊メニュー

かつては日雇い労働者のための簡易宿泊施設街のイメージが強かった山谷。近年は外国人バックパッカーに人気上昇中のこの街に登場した新しい酒場。街歩きと酒場巡りが趣味の店主・酒井秀之さんが「この街に開かれた酒場を作りたい」と一念発起。レトロポップな内装は、看板製作が得意な〈上堀内美術〉がプロデュースした。真っ赤な壁を覆い尽くす短冊メニューには「醤肉」「海苔(のり)炒り卵」「焼きカレー」など興味をそそる料理が。

山谷酒場の低温調理した醤肉、特製ソースを添えた、まるごと人参のスモーク、花椒酒。
低温調理した醤肉、特製ソースを添えた、まるごと人参のスモーク、花椒酒。

・山谷に惹かれた元喫茶店店主が「この町を体験しに来てほしい」と酒場をオープン。
・和洋中エスニック、ハムエッグやトーストといった喫茶店メニューなど、多彩なつまみが。
・近隣〈カストリ書房〉の渡辺豪さんがディレクションし、古書などを販売する棚もある。

必ず食べたいつまみ:特製麻婆豆腐。

HIBIYA CENTRAL MARKET内 一角(日比谷)

カラッとジューシーなから揚げは必食!

HIBIYA CENTRAL MARKET内 一角の店内
小上がり

大型商業施設内に大衆酒場が登場する日が来るとは。東京ミッドタウン日比谷の一角に生まれた広々とした酒場は、クリエイティブディレクターの南貴之さんと有隣堂書店のコラボレーションによる複合店舗〈HIBIYA CENTRAL MARKET〉内に。店内は、モダンに進化した小上がり、カウンターとテーブル席で構成。昼は定食、午後は喫茶メニュー、そして夕方から、唐揚げと種類豊富なハイボールがウリの居酒屋に。

一角の鶏のから揚げ、カラマンシービネガーハイボール
鶏のから揚げ。爽やかなカラマンシービネガーハイボール。

・商業施設に現れた終日営業の大型居酒屋。
・代々木上原の居酒屋〈ランタン〉や〈AELU〉の丸山智博さんが、プロデュース。
・平日の17時〜19時はハッピーアワー。から揚げ1個と角ハイボールのセットも。
・ハイボールは約20種のバリエーションが。

必ず食べたいつまみ:おばんざい7種盛り

「新・大衆酒場」の魅力は、空間のみにあらず。例えば豊富なつまみの中で、その店ならではの故郷の味を出す店も。宮崎出身の店主が営む〈酒場 浮雲〉には「宮崎県霧島鶏のチキン南蛮」が。

加えて、昭和にはなかった酒のバリエーションも、今の時代の酒場ならでは。〈呑ん処二〇九〉にはナチュラルワインが60種類以上、〈煮込みとお惣菜スタンド ウエトミ〉には、クラフトビールが20種類以上。いずれも目移り必至。

酒場 浮雲(学芸大学)

明るい酒場で、店主の郷土つまみを。
・カフェのような内装に本気の短冊メニュー。モツ煮、唐揚げ、季節のフルーツサワーなど。
・店主は宮崎出身。郷土料理のチキン南蛮があったり、肉や魚も宮崎県産を積極的に使う。
・野菜も、実家や知人の畑で採れたものを使用。
・古巣のイタリア料理店によるジェラートも。

必ず食べたいつまみ:宮崎県霧島鶏のもも肉唐揚げ

呑ん処 二〇九(渋谷)

渋谷の真ん中でおやつ呑みから深夜まで。
・寿司、天ぷら、すき焼きの三大和食のつまみが柱。外国からの客を連れていくのにも重宝。
・人気メニューは、軟らかく煮て揚げた大根の天ぷら。ファストフード風の袋が話題。
・大人が落ち着いて飲めるように、24歳以下の男性は23時まで入店不可というシステム。

必ず食べたいつまみ:もつ煮

煮込みとお惣菜スタンド ウエトミ(代々木八幡)

空いた時間に、ふらっと寄れる清涼酒場。
・代々木上原と富ヶ谷の間だから〈ウエトミ〉。
・コの字カウンターの片側はスタンディング。
・店の雰囲気に合うカジュアルつまみが揃う。
・定番の料理+日替わりメニューも約10種。
・ワインやビールはセルフで相場より安く!
・もつ煮込み定食などのランチもある。

必ず食べたいつまみ:お惣菜盛り合わせ