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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第20回『神霊狩/GHOST HOUND』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。

photo: Natsumi Kakuto(banner), Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair&make: Shizuka Kimoto / text: Soma Saito

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『神霊狩/GHOST HOUND』

声優・斉藤壮馬

誰かの視点だ。ノイズ混じりのその視点は宙を舞い、次々と場面が切り替わっていく。蝿が少女の唇にとまり、次いで森の中へと誘われる。

印象的な冒頭である。今回紹介するのは『神霊狩/GHOST HOUND』。Production I.Gの20周年記念作品として企画され、2007年にWOWOWで放送された名作だ。
監督は中村隆太郎さん、シリーズ構成は小中千昭さん。このタッグにピンとくるアニメファンの方も多いだろう。電脳空間を舞台にした陰鬱な世界観が今なお多くの方の熱狂的な支持を集めている、『serial experiments lain』を生み出した2人である。
さらに原作が『攻殻機動隊』の士郎正宗さんとくれば、もう入り口だけで垂涎もののドリームチームだ。

中学2年生の主人公・古森太郎(こもり・たろう)は、11年前に起きた誘拐事件の影響で何をするにも気力が湧かず、ナルコレプシー(睡眠障害)などの症状に悩まされている。
馴れ馴れしくやたらと絡んでくる転校生の中嶋匡幸(なかじま・まさゆき)や、「大神拝霊会」教祖の孫であり一匹狼の大神信(おおがみ・まこと)、亀岩神社の巫女である小学5年生・駒玖珠都(こまぐす・みやこ)らと関わっていくうちに、太郎は大きな物語のうねりに巻き込まれていくこととなる。

声優・斉藤壮馬

小中千昭さんのファンであるということはあちこちで言ってきたのだが、たしかこの作品もその流れで知ったような気がする。
また、オカルト、ホラーを基調としながらも、ビルドゥングスロマンやSFの要素も多分に含まれた複合的な物語がとにかく好きで、ふと思い立って観返すことがある作品だ。

ぼくは当時、福山潤さん演じるうざい転校生の中嶋がとにかく好きで、自分の芝居の特性の一つになってしまったと感じるくらい、よく物真似をしていた。もちろん個人の勝手な思い込みだが、彼の心の機微がなぜかわかるような気がしたのだ。
また、太郎が新しく出会い、カウンセリングを担当してもらうことになる臨床心理士・平田篤司(ひらた・あつし)も非常に印象深いキャラクターである。その生気のない風貌と、独特なリズムによるセリフまわしは、どこか異様な雰囲気を感じさせる。特に1話などは、太郎の視点で考えてみれば、「この人、本当に信じて大丈夫なのかな?」と思わされるようなけれん味がたっぷりだ。

物語は序盤の雰囲気から大きくツイストし、まさかの展開に突入していく。各話のタイトルやキーワードを拾うだけでも非常に考察のしがいがある作品なので、もし観てくださる方は、ぜひ一度、ネタバレなしでご覧いただきたく思います。

最後に、オープニング・エンディングがとにかく素敵だと、声を大にして申し添えたい。
特にオープニングの妖艶な雰囲気は強く記憶に残っていて、ときおり頭の中で流れ出したりもする。歌も歌詞もいいが、入りのドラムの音色が大好きなのでチェックしてみていただきたい。

そういえば、なんとなくだが、この年代に自分がはまっていた作品には、ジャジーな雰囲気の音楽がセットになっている気がする。となると当然、その後ぼくが生み出すことになる楽曲にも多大な影響を与えているわけで。
ああ、自分はやっぱりこういう展開が好きだよな——それはもちろん、楽曲におけるコード進行のことでもあり、アニメにおける物語進行でもあるのだ——そんなことを考えながら一気に観返した年末年始だった。

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