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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第17回 lostage『PLAY WITH  ISOLATION』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。

photo : Natsumi Kakuto(banner), Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair&make: Shizuka Kimoto / text: Soma Saito

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lostage『PLAY WITH  ISOLATION』

lostage『PLAY WITH  ISOLATION』を持つ斉藤壮馬

中学生のころ、母の仕事についてたまに東京に遊びに行った。そのあたりのことは各所で書いてきたが、このバンドに出会ったのもそのときだった。

LOSTAGE。今は大文字表記だが、当時はlostageと表記されていた。今回扱うのは1stアルバム『PLAY WITH ISOLATION』なので、あえて小文字で書かせていただきたい。

その日は、たまたま雑誌か何かで見かけたWRONG SCALEというバンドが気になっていたので、そのCDを探していたのだと思う。
ちなみにこちらのバンドも本当に素晴らしいバンドなので、ぜひ聴いてみていただきたい。

新宿か渋谷のタワレコだったと記憶している。運よく試聴機でWRONG SCALEさんのCDを見つけたぼくは、意気揚々とヘッドホンを装着した。
あ、これもう絶対買いだ。大好きだ。2秒くらいで即決したのをよく覚えている。

さて、お目当てのCDは購入確定したが、むしろここからが本番である。
雑誌やインターネットでは出会うことのできない、その場ならではの音楽との一期一会こそ、CDショップの醍醐味だろう。
というか、東京で何かを買えるということがそもそも滅多にないので、この数ヵ月に一度の機会のために、日々の小遣いを極限まで節約していたのだ。

声優・斉藤壮馬

そこで、彼らに出会った。
たしか新世代エモ、ハードコアバンド、みたいなくくりで、試聴機に入っていたのだと記憶している。

まず、バンド名とジャケットに惹かれた。
lostage。ぼくは当時まだ子供だったが、なぜかすでに何かをどこかで失ってしまったような感覚を常に持っていた。
もっとも、そう思いたいお年頃だっただけかもしれないが。

ブルーの背景に、両手と丸。シンプルだが、なぜか目が吸い寄せられた。
ジャケ買いにしてもそうだが、自分にはこういう直感めいたものを素直に信じてしまうところがある。このときも、その感覚に素直に従った。

結果、ぶち抜かれた。
このアルバムも、先ほどのものと同じく、ほとんど2秒くらいで即決した。
M1「Television City」の暴力的なベースに、バンドキッズの鼓膜と心は一瞬にしてやられてしまった。

間髪を容れず破壊力抜群の轟音ドラムがたたみかけ、すかさずギターが絡みつく。

どこか投げやりなムードのヴォーカルは、しかしメロディアスだ。
歌詞カードと照らし合わせて聴くのも本当に楽しく、いわゆる言葉そのものの意味ではなく、音韻も言葉の質感もシームレスに扱うような作詞スタイルには、今も大いに影響を受けている。

続くM2「人間ロボット」もすさまじい名曲である。M1よりも攻撃性はやや落ち着き、かわりにバンドの持つメロウな繊細さが顔をのぞかせる。かと思えばサビで爆発するこのカタルシス!

lostageの楽曲は、たとえばプログレッシブ・ロックのようにひねりを効かせまくっているわけではない。
だが、要所要所のキメやフレーズが、いくつになってもバンド小僧のぼくを捉えて離さない。
これからも間違いなく聴きつづけていく、最高に格好いいバンドである。

他にも好きな曲が無数にある。まずこのアルバムの前に出されたEP『P.S.I miss you』に収録されている「FX 100」や「手紙」、メジャーデビュー後でいえば「こどもたち」「ドラマ・ロゴス」「海の果実」「母乳」「SUNDAY」「SURRENDER」などなど……
書いているだけであのころの思い出が去来する。

ああ、バンドって最高だなあ。

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