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斉藤壮馬の「ただいま、ゼロ年代。」第15回 草川為『ガートルードのレシピ』

30代サブカル声優・斉藤壮馬が、10代のころに耽溺していたカルチャーについて偏愛的に語ります。

photo : Natsumi Kakuto(banner), Kenta Aminaka / styling: Yuuki Honda(banner) / hair&make: Shizuka Kimoto / text: Soma Saito

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草川為『ガートルードのレシピ』

『ガートルードのレシピ』を持つ斉藤壮馬

実家に住んでいたころ、家族で漫画の貸し借りをするのが常だった。
特に我々兄妹は、読み終わった漫画を廊下の手すりに置いておいて、誰かがそれを回収し次のおすすめを置き直す、というように、みんなで面白い作品をシェアしたものだ。

草川為先生の『ガートルードのレシピ』は、上の妹が見つけてきた漫画だった。
ぼくらはそれぞれ好みの系統が違っていて、両親は歴史物や大作系、ぼくはサブカル系、上の妹は少女漫画系、下の妹は少年漫画系と、見事に好みがバラけていた。
漫画のみならず映画や本を好きなのがふつうという環境は、とてもありがたいものだなと今になって思う。

無数の悪魔のパーツを集めて造られたツギハギの悪魔・ガートルードは、追っ手から逃れた先で、ヒロイン・佐原漱(さはら・すすぎ)と出会う。
物語では、自らの製法を記した「ガートルードのレシピ」を探す彼と彼女たちの、ポップでユーモラス、だが永遠には続かないつかのまの日々が描かれていく。

まずもって、人造悪魔ガートルードの出自、ビジュアル、性格がどんぴしゃで好みなのは言うまでもない。魔力を行使する際に、シェイクスピアよろしく血で呪文を書かなければならないのもポイントが高い。

しかしながら、プッペンとマリオットという、最初は一応敵として現れたのにすぐにチームの一員になるコメディリリーフ(いいところできっちり活躍してくれるタイプ)や、片目を取り戻すために関わってくる慇懃無礼かつ妖艶な悪魔・カーティスなど、コンパクトなストーリーながら、敵にも味方にもぐっとくるキャラクターがわんさかいる点も見逃せない。

そして、なんといってもヒロインである佐原漱——サハラの人間的魅力がたまらない。
最初にガートルードに会った際、驚きながらも軽妙なやりとりをしてみせるところに、彼女の度胸とユーモアがすでに垣間見える。

ぼくは小さいころから、いわゆるクールビューティ系のキャラクターが非常に好みだったのだが、別ラインで、適応能力が高くいざというときはやってくれるキャラクターも好きになったのは、間違いなくこのサハラの影響があると思う。

声優・斉藤壮馬

草川先生の作品は本作に限らず、キャラクターたちの何気ない掛け合いが本当に生き生きとしている。
会話のリズムが本当に心地よく、またすべてを説明するのではなく、間や表情で魅せてくれる余白の塩梅が絶妙だ。

なりゆきに身を委ねるのではなく、自らの意思で選び、その責任を負うキャラクターたちの生き様が、押しつけがましくなく染み入ってくる。
今回連載のために久しぶりに読み返したが、草川さんの他作品も読み返したくなって、一気に買ってしまったほどだ。

とにかく1話に作品のエッセンスがぎゅっと詰まっているので、少しでも興味を持ってくださった方はぜひ読んでみていただきたい。

そういえば、今回撮影に使用したのはコミックス版だが、こちらはもう絶版のようで、現在は文庫版しか手に入らないとのこと。
実はコミックス版には草川先生の初期短編が数作併録されていて、中でも『逢瀬』『マイ グランド ファーザー』は何度読み返したかわからない。
なんなら『逢瀬』に至っては、わかる方にはばればれかもしれないが、かなり直接的に影響を受けている。

本作もまた、ぼくを形作っているレシピに刻まれた、大切な要素の一つである。
とりあえず、次に実家に帰ったら絶対にコミックス版を読み返そうと心に決めた。
妹よ、そのときはちゃんと連絡するね。

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