思ったことを真っすぐに言う飾り気のなさ、正直さに信頼できる人と感じたんです
大ヒットを記録した映画『ナミビアの砂漠』の監督、山中瑶子さんにとって、あくまでテレビで見るパブリックな巨匠だった「坂本龍一」。彼が現実に現れたのは、2018年のニューヨーク、北米の日本映画祭、ジャパン・カッツで、自主製作したデビュー作『あみこ』を上映した時のこと。
「前に座っている人が髪の毛が綺麗でおしゃれで、坂本龍一さんみたいと思って。その人があみこの行動が逸脱した時に、声を上げて笑っていたんです。上映が終わって、監督の想田和弘さんがいたのでその話をしたら、“それ坂本さんだよ。近くに住んでるから”と言われて。本人とすぐに気づけてよかったです」
その後ジャパン・カッツのキュレーターをしていた増渕愛子さんづてに、無軌道で乱暴なようでいて繊細なところが良かったと坂本さんが作品を褒めていたことを知った山中さん。感想を、劇場公開用のチラシに使わせてほしいと依頼したそう。
「正式にコメントをいただいて、その後も“応援隊します!”と、一人PRのようにラジオ番組に出演させてくれたり、宣伝してくれました」

当時、誰にも心を開いていなかったという山中さんはこう振り返る。「坂本さんとご一緒した現場で、余裕がないことによりとても高圧的になっている方がいて、やりづらいなと思っていたら、坂本さんがスッと来て、“ヤな感じだね”と言ったんです。それがすごく良くて。そうやって素直に言っていいんだ、そう感じていた自分はおかしくなかったんだと思えました。思ったことを真っすぐ言うその飾り気のなさ、正直さに、信頼できる人だと感じました」
山中さんは、『戦場のメリークリスマス』の坂本さんの役者としての素晴らしさについても指摘する。

1942年、インドネシア・ジャワの俘虜(ふりょ)収容所で出会った男たちの交流を描く。デヴィッド・ボウイ、ビートたけしも出演。監督:大島渚。1983年日本公開。
「男性性に縛られるヨノイのキャラクター性と、坂本さんがそもそも持っていたものとの融合が完璧で、すごく好きです。出演する際の交換条件として、“音楽も担当させてほしい”と言って、初めて映画音楽をやって、それが未来永劫語り継がれる曲になっている。そのバイタリティとマインドがすごいなと」
これから坂本作品に出会う若者たちのことを考えると、「坂本さんが羨ましい」と山中さんは言う。
「作品も文章も言葉も、ものすごい量を残しているじゃないですか。感じられることがずっと残っているというのは嬉しいですよね」