Villa della Pace（石川／七尾）
イタリアン：
イタリアに学び土地の恵みを掘り起こす
目の前に広がる七尾湾は、湖のように穏やか。「絶景」とも違うさりげなさに、心を優しくなでられるようだ。
「食材も同じ。立ち止まり、目を凝らして初めて見える宝が多く眠っている」と、平田明珠シェフ。ともすれば素通りされかねない土地と食の営みに光を当て、人々を引き留めるのが〈ヴィラ・デラ・パーチェ〉。七尾市街から移転、宿を併設して再スタートを切り、2年目を迎えた。
かつては海水浴場として賑わった浜辺で、地域の集会所だった建物をレストランに。小さな畑で野菜も育てている。 
平田シェフ。国内外の料理コンテストへの出場経験も豊富で、次代の担い手として料理人の間でも注目されている。 
宿泊客室は1室のみ。レストランと同様に、余計な飾りはなく、窓が切り取る自然の景色が主役のしつらえに。
自然と食材の豊かさに導かれ能登に移り住んだ平田シェフは、東京育ち。修業先も東京のイタリアンだ。いしり（魚醤）をアンチョビ代わりに使ったり、朝獲れのピカピカの魚にクリスピーなパンツァネッラ（パンのサラダ）を重ねたり。足元の食材への執着と、おいしく食べようとする知恵と。皿から、イタリアの食の底力が浮かび上がる。
「アミューズ」。天然キノコの塩漬けを使ったアランチーニ（右上）やいしりバターを挟んだメレンゲ（右下）。 
「畑」。近所の農家で、その時採れる野菜30～40種を異なる調理法で。すべてを混ぜ、畑を丸ごと味わう一皿。 
「オレキエッテ 中島菜」。イタリア・プーリア州の郷土パスタを、能登伝統野菜で。いしりがアンチョビ代わり。 
「阿岸の七面鳥 のと115」。国産の七面鳥は稀少。料理はすべて15,000円のコースから（内容は時期替わり）。
「自然を“表現”だなんて自分にはおこがましい。寄り添う手段を考えたとき、やはりイタリアに学ぼうと」。しつらえは潔くシンプル。窓が切り取る海の眺めと皿にのる“自然”が、外と内の境界をぼかしていく。
設計、空間ディレクションは石川県金沢市〈継手意匠店〉の岩本守雅が手がけた。地元の建材も多く用いている。 
朝食。〈あんがとう農園〉の野菜をはじめ、チーズも卵も、地元の生産者のもの。パンは中能登町〈月とピエロ〉から。
