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ドキュメンタリー好き・鈴木芳雄、忘れられないあのシーン。『ホックニー』

ドキュメンタリー好き、美術ジャーナリスト・鈴木芳雄さんが「忘れられない、あのシーン」について語ります。

illstration: Ryo Ishibashi / text: Emi Fukushima

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デイヴィッド・ホックニーが
絵画への持論を語るとき

ホックニーといえば、気持ちの良い絵を描く、オシャレでお気楽なゲイのアーティスト。そんな軽やかなイメージを持つ人も少なくないでしょう。でも、名作の一つ「The Blue Guitar」の前でホックニーが作品を語るシーンを観ると、彼が美術史に則った硬派な芸術家だとわかります。

『ホックニー』
Copyright Works ©David Hockney used by permission. All rights reserved David Hockney ©FIRST CLASS HERO PRODUCTIONS LTD / BRITISH FILM INSTITUTE 2014

この絵は、元を辿ればピカソの「The Old Guitarist」を原案にしていることが明かされる。ピカソがセザンヌからキュビスムを継承、発展させたように、ホックニーも、ピカソの仕事の続きを背負っていたんです。

同時に見えるのは、彼が美術界に絶えず革命を起こしてきたこと。写実的に描くための遠近法に疑問を持った彼はこのシーンで、絵画はあらゆる仕掛けで人の目を欺くものであり、“ありのまま”であるはずがない、と常識を否定する持論を展開するんです。

その後彼は、複数の視点を持つ人間の「観る感覚」により近づこうと、コラージュなどの手法を取り入れ、独自にリアルな表現を目指します。
ほかにもFaxを使って遠隔での作品発表を試みたり、iPadをいち早く描画に使ったりと、絶えず挑戦する姿勢が記録されている。人物像だけでなく、画業の功績にも焦点が当てられた稀有な映像です。

『ホックニー』イメージイラスト

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