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祐真朋樹が振り返る、トム・フォードとエディ・スリマンのリブランディング/後編

最近、『リブランディング』という言葉をよく聞くようになった。その意味はといえば、既存のブランドを時代や顧客に合わせて再構築すること。僕はファッション業界で、このリブランディングを成功させた事例をいくつか見てきた。

前回の「祐真朋樹が振り返る、トム・フォードとエディ・スリマンのリブランディング/中編」も読む。

Text: Tomoki Sukezane / Edit: Akihiro Furuya

今こそ思い出したいラガーフェルドの言葉。

忘れてはいけないのは、2015年からスタートしたアレッサンドロ・ミケーレのグッチでの活躍だ。あれも一種のリブランディングだったと思う。

前任者のフリーダ・ジャンニーニが突然辞任したため、彼のファーストコレクションはなんと5日間で作られたらしい。少ないルック数だったが、赤いボウブラウスに黒いパンタロンは、新生グッチを高らかに印象づけた。

アレッサンドロ・ミケーレの場合、2002年からグッチに在籍していたので、時間に裏打ちされたブランドへの思い入れと、徳川家康のように(?)虎視眈々とポストを待ち続けていたエネルギーの爆発が奏功したように思える。彼本人と話したのは一度だけ。

2002年頃、半日だけ東京案内をした。グッチのアクセサリー担当として東京へリサーチに来た時だ。当時仕事をしていたセリュックスへも連れて行って、僕がルイ ヴィトンとコラボして作ったシガーケース風のアクセサリーボックスなども見せた。その後、当時毎晩のように行っていた羽澤ガーデンのバーへと案内した。

フリーダ・ジャンニーニも一緒だったので、もっぱら話をするのはフリーダだったが、時折ボソボソと質問するアレッサンドロのオタクな目線は印象的だった。その何年か後に、この2人がグッチのトップになるとは知る由もなかった。が、とにかく2015年からのアレッサンドロ・ミケーレの活躍は素晴らしい。
ラグジュアリーブランドのディレクターは外から招かなくてはいけないという常識に一石を投じたかたちでの成功は、端から見ていても気持ちがよかった。

さて、コロナ禍の今、この先ファッションはどうなるだろう?
出掛けられない日々が続くと、着るものもどんどんどうでもよくなってしまう。かつてカール・ラガーフェルドは、「ジョギングパンツは敗北の印だ。自分の人生をコントロールすることに敗れると、ジョギングパンツで外出するようになる」と言っていた。

シャネルのリブランディングの立役者である彼の言葉は重い。振り返れば最近の僕は、ウエストがゴムのパンツをはいている時間が長くなってきている。これではいけない。
こんな時代だからこそ、カール様の御言葉を肝に銘じるべきなのだ。僕は明日から「敗北の印」とは決別するつもりだ。ゴムパンでの外出は金輪際控えようと思う。