選・文 つやちゃん(文筆家)
【伝えるコツ1】切れ味の鋭い言葉で本音を打ち明ける
この数年、若者を中心に日本で大きなムーブメントとなっているヒップホップ。巧みな言葉遣いでリアルを歌うことによって、私たちを既成概念や常識から解き放ちハッとさせる力を持っている。ここでは、核心を突くようなエッジの立ったリリックの例に注目したい。
容姿への批判を受けてきたちゃんみなは、はびこるルッキズムに対して自らを「歩く高級芸術品」と譬(たと)えることで批判する−される関係性を逆転させる。「どっちにしろ触れないくせに」と本音で孤高の存在をアピールしつつ、「死ぬ死ぬ死ぬ、女が死ぬ」とグサリと刺す切れ味が鋭い。
あっこゴリラも、皆が薄々感じていた世の中の矛盾を、ズバリ言語化する能力に長けているラッパーだ。「ノーギャラで『アーティスト支援』」という絶妙な例を挙げ、ガザ情勢に対する日本政府の対応についても異を唱える。「めんどい中堅」と自虐的なワードを添えるところも、逆にリアリティが増して良い。
また、「ハナから興味ねえよレースやニュースショー」と大きい態度で本心を歌うKohjiyaは、続いて入る「言った」という合いの手がポイントだ。若手ラッパーのMIKADOが昨年ラップコミュニティでミーム化させた言葉で、大きいことを言った際に自ら「言った」と突っ込むことによって、本音をより一層際立たせる効果がある。たった一行のリリックにも、いくつもの「伝える」技巧が凝らされているのだ。
【伝えるコツ2】譬えを交えて画(え)をイメージさせる
比喩は相手に伝えるための技法として古来盛んに使われてきた手法だが、ラッパーたちはそれを、自分自身のキャラクターを際立たせるためのアプローチとして活用する。例えばElle Teresaが用いるのは「つけま」。恋人と離れがたい愛おしさ、くっついたり離れたりといった関係性を、「つけまノリ」で表現するギャル的大胆さが面白い。
さらに「つけまつけたら飛んでくあなたのいる所」「呼ばれたらいっちゃう鴨」と一途な面も感じさせ、これだけの数行で、比喩を絡めながら彼女がどんなラッパーか印象づける技術が実に鮮やか。
一方、ミーガン・ザ・スタリオンとの曲「Mamushi」がワールドワイドでヒットした千葉雄喜は、世界規模でスターになっていく自らの状況を、「盗撮される有名人」というテーマで表現。ここでは「後ろに影ある光があれば」というリリックによって、撮影される様子とともにスターとしての負の面を「影」の比喩で表している。
メディア等でよく使われる“スーパースターの光と影”といった言い回しを連想させる、シンプルだが強い譬(たと)えだ。これもまた、日本のラップシーンの顔として存在感を高め続ける彼のキャラクターが伝わる手法。何より、Elle Teresaも千葉雄喜も、比喩によって情景が浮かんでくるのが見事。聴き手に対していかに具体的なイメージを描いてもらうかというのは、伝える側のアプローチとして重要なテクニックなのだ。
【伝えるコツ3】シンプルな韻を重ねてインパクトを生む
ラップの大きな特徴の一つに「韻を踏むこと=押韻」があるが、近年は短いフレーズで畳みかけるように踏む、言葉遊び的な韻が多く見られる傾向。リズミカルで、感覚的に伝わる名フレーズが数多く出てきている。中でも、軽快さにおいてはSad Kid Yazに注目したい。
「三茶」「サンタ」「やんちゃ」「ケンカ」「練馬」と、ポンポンと軽やかに近い音の言葉を繰り出すことで、聴き手の直感をくすぐる。「角刈りやしあいつ多分練馬」といったユーモアも面白い。
また、LANAは「LEXのおかげ お前はオマケ/オマケがここまでできねぇお前の負け」という短いリリックに、「おかげ」「お前」「オマケ」「負け」を密集させ快感を生む。華麗な韻で、兄のLEXを引き合いに出した批判を一蹴。
【伝えるコツ4】あえて「〜しない」と否定形で意思表示する
「何をするか」だけではなく、「何をしないか」を伝えることで、より一層「やること」が際立つケースがある。ACE COOLはラッパーとして「すべて小節にある」と宣言しつつ、それと対比的に「人に本棚を見せびらかしたりしない」「言葉の為の言葉を吐いたりしない」と言うことによって、彼の信念がひしひしと伝わってくる。「ポエムとかツイートしない」というラインには、ドキッとするラッパーも多いのではないか。
また、「DOSHABURI」でkZmが歌う「コンビニ行ってパクんない傘」というラインも同様。TikTokでバイラルしたのも記憶に新しいが、土砂降りのように金を稼いでいる=だから傘もパクらない、というメッセージだ。「高い傘を買う」と表現するよりも、確かに伝わるものがある。