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ちゃんみな、千葉雄喜らのリリックに秘められた4つの表現力。思想と感情が伝わるパンチライン

国内のヒップホップ界で支持を集めるアーティストたち。リリックに秘められた4つの表現力を解説。

本記事は、BRUTUS「伝える力。」(2024年2月3日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

text: Tsuyachan

選・文 つやちゃん(文筆家)

伝えるコツ1】切れ味の鋭い言葉で本音を打ち明ける

この数年、若者を中心に日本で大きなムーブメントとなっているヒップホップ。巧みな言葉遣いでリアルを歌うことによって、私たちを既成概念や常識から解き放ちハッとさせる力を持っている。ここでは、核心を突くようなエッジの立ったリリックの例に注目したい。

容姿への批判を受けてきたちゃんみなは、はびこるルッキズムに対して自らを「歩く高級芸術品」と譬(たと)えることで批判する−される関係性を逆転させる。「どっちにしろ触れないくせに」と本音で孤高の存在をアピールしつつ、「死ぬ死ぬ死ぬ、女が死ぬ」とグサリと刺す切れ味が鋭い。

世界を回す私
ありがたく思え全員
歩く高級芸術品
お前のNOは無意味
Sick sick sick what’s your size
S,M,L 頭痛い
NO NO NO うるさくない?
どっちにしろ触れないくせに
見て見てみて、かわいいね
細すぎる、太すぎる、デカすぎる、チビすぎる
死ぬ死ぬ死ぬ、女が死ぬ

「NG」(2024年)
ちゃんみな
1998年韓国生まれ。日本語、韓国語、英語を操るトリリンガルラッパー、シンガー。台湾、香港、韓国でも単独公演を成功させる。2024年にはASH ISLANDとの結婚と第1子出産を発表。25年5月より12都市14公演の全国ツアーを開催。
©Seitaro Tanaka

あっこゴリラも、皆が薄々感じていた世の中の矛盾を、ズバリ言語化する能力に長けているラッパーだ。「ノーギャラで『アーティスト支援』」という絶妙な例を挙げ、ガザ情勢に対する日本政府の対応についても異を唱える。「めんどい中堅」と自虐的なワードを添えるところも、逆にリアリティが増して良い。


ノーギャラで「アーティスト支援」
ロゴパクって売ってる(SHIEN)
ガザ人道的休戦日本棄権 どうかしてるぜ(what t fuck)
客呼べないくせによくぞ言ったねめんどい中堅(実際情けねえ〜)
でもおかしいことおかしいって言えなくなったらthe end

「逆境天使」(2024年)
あっこゴリラ
バンドでドラマーとして活動後、2015年よりラッパーに転身。17年『CINDERELLA MCBATTLE』で優勝。世界各国のダンスミュージック・フリークで、「祭」が主題の6年ぶりとなるフルアルバム『キメラ』をリリースしたばかり。

また、「ハナから興味ねえよレースやニュースショー」と大きい態度で本心を歌うKohjiyaは、続いて入る「言った」という合いの手がポイントだ。若手ラッパーのMIKADOが昨年ラップコミュニティでミーム化させた言葉で、大きいことを言った際に自ら「言った」と突っ込むことによって、本音をより一層際立たせる効果がある。たった一行のリリックにも、いくつもの「伝える」技巧が凝らされているのだ。

ハナから興味ねえよレースやニュースショー(言った
けど分からせなきゃいけないだろ/俺がChampion(言った

「言った!-Remix」(2024年)
Kohjiya
コージヤ/2002年長崎県生まれ。ラッパー、ソングライター。12歳の時に地元でコレクティブを結成し、その後17歳から個人名義の活動も開始。『ラップスタア2024』で優勝、今ヒップホップシーンで最も注目を浴びる一人。
©POP YOURS/Yukitaka Amemiya

伝えるコツ2】譬えを交えて画(え)をイメージさせる

比喩は相手に伝えるための技法として古来盛んに使われてきた手法だが、ラッパーたちはそれを、自分自身のキャラクターを際立たせるためのアプローチとして活用する。例えばElle Teresaが用いるのは「つけま」。恋人と離れがたい愛おしさ、くっついたり離れたりといった関係性を、「つけまノリ」で表現するギャル的大胆さが面白い。

さらに「つけまつけたら飛んでくあなたのいる所」「呼ばれたらいっちゃう鴨」と一途な面も感じさせ、これだけの数行で、比喩を絡めながら彼女がどんなラッパーか印象づける技術が実に鮮やか。

つけまノリみたいに離れないで
不安なる態度まだ行かないで
止める糸まぶた埋没みたい
また途切れた連絡
要らないあなた以外
つけまつけたら飛んでくあなたのいる所
どこでも呼ばれたらいっちゃう鴨

「Tsukema」(2023年)
Elle Teresa
エル・テレサ/1997年静岡県生まれ。ギャルラッパーとして等身大のキャラクターから生まれる唯一無二のラップが、女性ファンを中心に熱狂的な盛り上がりを生んでいる。『POP YOURS』をはじめ大型フェスにも多数出演。
©DAX

一方、ミーガン・ザ・スタリオンとの曲「Mamushi」がワールドワイドでヒットした千葉雄喜は、世界規模でスターになっていく自らの状況を、「盗撮される有名人」というテーマで表現。ここでは「後ろに影ある光があれば」というリリックによって、撮影される様子とともにスターとしての負の面を「影」の比喩で表している。

メディア等でよく使われる“スーパースターの光と影”といった言い回しを連想させる、シンプルだが強い譬(たと)えだ。これもまた、日本のラップシーンの顔として存在感を高め続ける彼のキャラクターが伝わる手法。何より、Elle Teresaも千葉雄喜も、比喩によって情景が浮かんでくるのが見事。聴き手に対していかに具体的なイメージを描いてもらうかというのは、伝える側のアプローチとして重要なテクニックなのだ。

こっちの方に 向いてるカメラ
ためらいなく盗撮する誰か
有名税だと前に言われた
後ろに影ある光があれば

「人の気」(2024年)
千葉雄喜
ちば・ゆうき/1990年東京都生まれ。2021年「KOHH」としての活動を引退後、現名義での活動を開始。25年1月にアルバム『STAR』を発表。7月には単独公演『千葉 雄喜 ― STAR LIVE』を日本武道館で開催する。
©Takao Iwasawa

伝えるコツ3】シンプルな韻を重ねてインパクトを生む

ラップの大きな特徴の一つに「韻を踏むこと=押韻」があるが、近年は短いフレーズで畳みかけるように踏む、言葉遊び的な韻が多く見られる傾向。リズミカルで、感覚的に伝わる名フレーズが数多く出てきている。中でも、軽快さにおいてはSad Kid Yazに注目したい。

「三茶」「サンタ」「やんちゃ」「ケンカ」「練馬」と、ポンポンと軽やかに近い音の言葉を繰り出すことで、聴き手の直感をくすぐる。「角刈りやしあいつ多分練馬」といったユーモアも面白い。

飲んでる渋谷それか三茶/いい子じゃないし来ないサンタ
やんちゃしてたら売られたケンカ/角刈りやしあいつ多分練馬

「Cinderella」(2023年)
Sad Kid Yaz
サッドキッドヤス/ノリの良いリリックとラフなラップで、ユース層に支持されるギャル男ラッパー。ロックを呑み込んだヤンチャなヒップホップを体現する。
©catchfish

また、LANAは「LEXのおかげ お前はオマケ/オマケがここまでできねぇお前の負け」という短いリリックに、「おかげ」「お前」「オマケ」「負け」を密集させ快感を生む。華麗な韻で、兄のLEXを引き合いに出した批判を一蹴。

上げたまつげと歓声/こっちにきてもっかい言って
LEXのおかげ お前はオマケ
オマケがここまでできねぇお前の負け

「No.5」(2024年)
LANA
ラナ/2004年神奈川県生まれ。若い女性に絶大な人気を誇るアーティスト。25年4月には、ヒップホップシーン史上最年少での日本武道館公演を予定。
©POP YOURS/Masato Yokoyama

伝えるコツ4】あえて「〜しない」と否定形で意思表示する

「何をするか」だけではなく、「何をしないか」を伝えることで、より一層「やること」が際立つケースがある。ACE COOLはラッパーとして「すべて小節にある」と宣言しつつ、それと対比的に「人に本棚を見せびらかしたりしない」「言葉の為の言葉を吐いたりしない」と言うことによって、彼の信念がひしひしと伝わってくる。「ポエムとかツイートしない」というラインには、ドキッとするラッパーも多いのではないか。

自分に愛を/そして人にも愛を/理解した時無くなっていたプライド
人に本棚を見せびらかしたりしない
言葉の為の言葉を吐いたりしない
Flex/したりポエムとかツイートしない/すべて小節にあるyeah

「虚飾」(2024年)
ACE COOL
エースクール/広島県生まれ。抒情的・哲学的なリリックと確かなスキルが融合した期待のラッパー。昨年発表したアルバム『明暗』が各方面から絶賛を浴びた。
©Jun Yokoyama

また、「DOSHABURI」でkZmが歌う「コンビニ行ってパクんない傘」というラインも同様。TikTokでバイラルしたのも記憶に新しいが、土砂降りのように金を稼いでいる=だから傘もパクらない、というメッセージだ。「高い傘を買う」と表現するよりも、確かに伝わるものがある。


土砂降りのような/YEN Won Dollers
コンビニ行ってパクんない傘

「DOSHABURI(feat.JUMADIBA)」(2023年)
kZm
カズマ/1994年東京都生まれ。ヒップホップ集団〈YENTOWN〉のメンバーながら精力的にソロ活動も展開。ますますその存在感を高めている。
©Ryo Yoshiya

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